道場主の源右衛門は老いても盛んだった。朝から千本の素振りをやる。三々五々集まってくる門弟達の一人一人に丁寧に稽古を付けてやる。だから師範代の新次郎の出番は少なくて、名目的な存在だった。「何故だろう」と不思議に思っていた。
ある日源右衛門宛に果たし状が届いた。ことの次第を新次郎だけには打ち明けてくれた。何と相手も同じ歳。生涯のライバルという。
「お主に介添え人を頼む、まずは女を買いに行こう」と源右衛門。
何と生涯不犯(ふほん)とも思っていた独身の先生。
「真剣勝負は畜生の心にならねば勝てぬ。お主は後学のため、これからのわしをよく見ておれ」
元々が一人の娘(今では婆さん)をめぐる争いだったとのこと。それが私闘禁止でここまで来た。もうここらが最後の決着でもいいという。
その日時、その場所、新次郎は凄まじい果し合いを見てしまった。どれだけの時間がかかったのか全く分からなくなった。老剣士同士の気迫と体力。鎬(しのぎ)を削るとはこのことか。何合切り結んでも勝負は付かない。最後は足をかけて、刀の刃と刃をあわせて、くんずほぐれずの泥まみれ。
「相手の老剣士もここまで精進を続けていたのだろうか」新次郎は二人が何だか愛おしくなってきた。相手の介添え人と目が合った。向こうも同じ気持ちでいるらしい。「どうしたものか・・・・」
「先生方」と新次郎が声をかけようとしたとき、老剣士二人は使い物にならない大刀を捨て、ごろごろ重なりあってお互いを小刀で突いて果てた。「畜生の心か」と新次郎は大泣して嘆(なげ)いた。
新しく道場主になった新次郎は門弟達にこの果し合いの話はしなかった。
(Feb.25.2005)
ある日源右衛門宛に果たし状が届いた。ことの次第を新次郎だけには打ち明けてくれた。何と相手も同じ歳。生涯のライバルという。
「お主に介添え人を頼む、まずは女を買いに行こう」と源右衛門。
何と生涯不犯(ふほん)とも思っていた独身の先生。
「真剣勝負は畜生の心にならねば勝てぬ。お主は後学のため、これからのわしをよく見ておれ」
元々が一人の娘(今では婆さん)をめぐる争いだったとのこと。それが私闘禁止でここまで来た。もうここらが最後の決着でもいいという。
その日時、その場所、新次郎は凄まじい果し合いを見てしまった。どれだけの時間がかかったのか全く分からなくなった。老剣士同士の気迫と体力。鎬(しのぎ)を削るとはこのことか。何合切り結んでも勝負は付かない。最後は足をかけて、刀の刃と刃をあわせて、くんずほぐれずの泥まみれ。
「相手の老剣士もここまで精進を続けていたのだろうか」新次郎は二人が何だか愛おしくなってきた。相手の介添え人と目が合った。向こうも同じ気持ちでいるらしい。「どうしたものか・・・・」
「先生方」と新次郎が声をかけようとしたとき、老剣士二人は使い物にならない大刀を捨て、ごろごろ重なりあってお互いを小刀で突いて果てた。「畜生の心か」と新次郎は大泣して嘆(なげ)いた。
新しく道場主になった新次郎は門弟達にこの果し合いの話はしなかった。
(Feb.25.2005)
