愛姫様は恋をしていた。相手は小姓組々頭の西本健太郎。身分違いである。夫々の縁談は進んでいた。この時代の武家では家同士の婚姻であり、まず個人の意思など入り込めない。

しかし奥方様は愛姫の恋を不憫に思って殿様に話した。殿様は「臣下との婚姻か? 確かに健太郎は我が藩一・二の家格の臣ではある。将来は父親の跡をついで家老職になるであろう。しかし姫の縁談先に悪い。もうどうにもならぬ。いっそ健太郎を国許に帰してしまおうか?」

奥方様は食い下がった「臣下に降嫁してもいいではありませぬか」「しかし大名同士の誼みもある」と正直なところ殿様には見栄があった。

ところで職務上健太郎は日々殿様の身近で働いている。「なるほど、ほれぼれする男前であり、仕事もできる」殿様はジレンマに陥った。「姫の一人位いいか」と思いもする。こっそり健太郎を呼び付けて質してみた。答えは「滅相もございません」しかし、その態度から健太郎の切ない気持ちも分る。健太郎も可愛い・・・・。

「お互いに時間がありませぬ、殿、ご決断を」と奥方様。早速江戸家老が呼ばれた。このやり手で鳴らす江戸家老「元々奥方様は将軍家から降嫁されました。何の問題がありましょう。不肖、私めが両家の破談は引き受けましょう」「ご公儀に憚りはあるまいか?」と殿様。「先にも申した通り奥方様は将軍家からのご降嫁。それも二十年近くも過去の話しです。早速健太郎は側用人に引き上げましょう」と江戸家老。

結果として殿様は敵の大名を一人作り、殿中ではとても冷たい仕打ちを受けた。「殿、人の噂も七十五日、一々気になさることもありませぬ」と江戸家老。しかし何と敵の殿様の世子(跡継ぎ)が道ならぬ恋で自決したとの噂。「殿、これで全て良かったのです」と奥方様。

江戸表にて比較的簡素な式が行われたが、他の大名家も祝ってくれた。
その後健太郎は家老となり、愛姫と帰国して幸せに暮らした。


                                               (Mar.22,2005)

 
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