

三郎は甚六親分の帰りをひたすら待っていた。親分は同心の旦那との相談に手間がかかっているものと思った。「大した捕り物になる」と三郎は興奮していた。ご府内を荒らし回った賊を内偵してやっと泥棒宿を突き止めた。金だけでなく平気で人殺しをやる連中。
しかし奉行所の捕り物出役は遅れた。賊は泥棒宿を出て仕事に向かう。三郎はジレンマに陥った。だが勇気を奮い起こして一人の判断で賊をつけた。賊は近江屋を狙っている。悔しいことに親分にも奉行所にも繋ぎがとれない。三郎の玩具みたいな十手で相手ができる賊ではない。
三郎は高らかに呼ぶ子を鳴らして賊が侵入した木戸口から直ぐに入った。
「賊だ。皆獲物を持って防げ。奉行所の捕り物出役が直ぐ到着するぞ」
賊は周章狼狽、大いに躊躇した。近江屋側は、主人は刀を持って指揮し、奉公人達は六尺棒や梯子を持ち出して立ち向かった。近江屋の防犯対策は用意周到だった。それからの三郎の活躍は目覚ましかった。借りた六尺棒で賊を突いたり叩きのめした。どういう訳か賊の刃物など怖くなかった。近江屋の主人は三郎の一連の働きに感心していた。
捕り物出役が賭け付けたときには、奉公人と一緒に賊を全てお縄にしていた。近江屋側には大した怪我人も出なかった。
「三郎、てえしたもんだ」と親分と同心の旦那に褒められた。
「滅相もございません。近江屋主従の普段からの心がけのお陰でございます」
賊は引き込みの女も含めて全員が磔・獄門になった。
暫くして「三郎さんを是非に家付き娘の婿養子に」と近江屋の主人。三郎は又ジレンマに陥った。親分と同心の旦那は近江屋に条件を出した。
「三郎は元々商家の三男坊、確かに商売にも明るい。しかし俺達も手放したくない。三郎には二股かけた親分になってもらう」
「よござんしょう」と男気の近江屋は答えた。
そのようなことで何とも器用な親分が出来た。
(Feb.22,2005)