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                                              太郎左ヱ門

物凄い暴風雨で難破して、皆散り散り、船頭の父親もどうなったか分からない。

辰吉は板子一枚に捕まって何昼夜。ほうほうの体で漂着したのが岩礁か島かといった小島。
しかし少し樹木も有り、雨水の溜まった池もあった。そして海鳥の多さにはびっくりした。

あまりの空腹に耐えかねて、海鳥一羽を捕らえて食べたのがいけなかった。海鳥との敵対関係が始まった。

「鳥は阿呆だと思っていたが困ったな」
棒切れを持って注意してないと海鳥が攻撃して来た。磯へ降りて貝や小魚や海草を食べることにした。

ある晴れた日に高みから見渡して見ると遠くに陸(おか)が見えた。海鳥の攻撃に注意しながら、方向と距離を頭に刻んだ。

木切れを蔦(つた)で結んで小さな筏を作った。その間も海鳥の攻撃は続いた。塩の流れを読みながら陸の方向へのルートを探した。

二度目の辛い漂流だった。水も食料もとっくに無くなったが、海鳥の執拗な攻撃は止まなかった。

浜の漁師が見付けてくれたときには、まさに死ぬ直前。
「何処から来なすった。何と四国からこの関東まで」

「否、難破して沖の島でしかじか」
「道理で海鳥にあちこちやられなすって」
普段大人しい海鳥も繁殖期には気が荒くなるとのこと。

帰国の船の中で辰吉はもう海鳥を見ないようにした。
「陸に上がろうか?」



                                             (Feb.25,2005)