『babel』を完成させて,長きに亘って恋い焦がれていた女をモノにしたとき,goalを視認したような気がした.
 だが,青天の霹靂により局面は一変,おれは一切合切をとりあげられてthe end of the worldに叩きつけられた.
 いっそ心臓が停まってくれた方がラクだったに違いない.
 それでも,おれは投げだしてしまえなかった.
 その結果,『Mr.Wells』『Eureka』そして『プロメテウスは電気椅子の夢を見るか?』を書いた.殊に『プロメテウス』については,我が最新作にして最高傑作だ.
 あの破局がなかったら,どの作品も生まれなかっただろう.
 書かされたことに気づいた.
 栄光のあとに用意された陥穽のような挫折はおろか,the end of the worldさえ,いまや,おれの書くものに貢献している.

 獲物を仕留めたとき・誰かと獲物を分かちあえたときの,得も云われぬ快さ.工業製品についてお褒めに与るのと違うのは,詩や物語はおれの形見だからだ.それらを差異化しているのは,他所の仔と我が仔を差異化するものと同一.

 おれは媒に過ぎない.これがおれに宛がわれた役回りなのだ.
 自己憐憫に浸る必要はないさ.