皆さんは保険って入っているでしょうか?入った方がお得なんでしょうか?実はこれにはある程度明確な答えがあります。ちょっとだけ数学の知識があれば、自分がどの保険に入るべきか、ある程度の指針を持つことができるのですが、保険の営業に言われるがまま入ってしまっている人も多いのではないでしょうか?保険というのは月々払うので実感が薄いですが、家の次くらいに大きな買い物です。ここではどのように保険を判断していけば良いか、解説したいと思います。

  • 期待値

その前にまず期待値について説明する必要があります。期待値くらい知っているよ、という方はこの項目は飛ばして頂いて結構です。そうでない方は、大事な話なのでここからお付き合いください。期待値とは、賭けをした時に受け取れる賞金の見込み額です(厳密には少し違うようですが、概ねそう考えて問題ありません)。この賭けがお得なのかどうかを判断するときに使える考え方です。例えばじゃんけん賭博をして、賭け金が100円、買った180円、負けたら0円としましょう。これはお得な賭けでしょうか??これは感覚でも分かると思うのですが、ではこれならどうでしょう。同じくじゃんけん賭博で、賭け金は100円で、買っても150円しかもらえませんが、負けても60円もらえます。これはお得でしょうか??

 

期待値は、賞金額×勝つ確率を合算したものになります。最初の例で言えば、じゃんけんは勝つも負けるも50%ですから、180×0.5+0×0.5=90、つまり平均として90円もらえる計算になります。100円払って、返ってくる賞金の平均が90円なのですから、つまりこれは損な賭けですね。では2番目の例ではどうでしょうか。150×0.5+60×0.5=105、つまり平均として105円もらえる計算になりますので、これはお得な賭けです。もしかしたらこれくらいは計算しなくても感覚で分かるよ、という人もいるかもしれませんが、さらに複雑になるとそうも行かないと思います。例えば、同じ100円の賭け金ですが、今度は勝ったら180円、あいこは90円、負けは30円です。これは流石に感覚だと良く分からないと思いますが、計算すると180×0.33+90×0.33+30×0.33=100なので、ちょうど100円が見込み額となり、妥当な賭けということになります。

 

  • 保険もある意味賭けの一種

この様に、期待値はその賭けがお得かどうかを判断するのに役立つ値なのです。では保険の話でなぜ期待値が出てくるかというと、保険も賭け事と実質的にはほぼ同じだからです。死亡保険でもがん保険でも、保険事故が起これば(賭けに勝てば)〇〇〇円もらえる、事故が起こらなければ(賭けに負ければ)もらえない、というように、確率でもらえる金額が変わってくるので、やはり期待値が役に立ちます。

  • 保険は基本的に損

では保険の期待値を計算すると、お得なのでしょうか?答えは損な賭けになります。全ての保険は例外なく損な賭けです。例えば30歳の人が月1000円、掛け捨て、死亡保険金額1000万円の保険に10年入ることを考えましょう。10年間で支払う金額は1000×12×10=12万円です。もらえる金額の期待値はというと、だいたい10年以内に死亡する確率が0.6%くらいですから、0×0.99+1000万×0.006=6万円ということで、損な賭けになります。どうして10年以内に死亡する確率が分かるかというと、生命保険各社は膨大な統計データを持っているのです。もちろん、あなた一人にとってはそれは確率の話で、どうなるかは分かりません。しかし保険会社からしてみれば、30歳で特に持病もない人が1万人いたら、10年後にはだいたい60人くらい亡くなっている、というのが統計から分かっているのです。保険会社は保険の営業に報酬を支払ったり様々な経費もかかかるのですから、必ず儲けられるように保険料というのを設定しています。上の例で言えば、一人に保険を売れば6万円儲かるとういわけですね。賭け事というのは必ず胴元が儲かるようにできているのです。ですから保険など入らず、月々1000円を自分で積み立てしていった方が、余程お得なんですね。

 

少し中学の数学の知識が残っている人であれば、保険が損であることは簡単に分かってしまいますから、保険会社は掛け捨てではなく一部を運用して満期になったら戻ってくる、などの仕組みで損な賭けであることを分かりづらく設定していることも多いです。しかしどの保険も例外なく、賭けとして見れば損です。満期になったら戻ってくるような保険であれば、そもそもその掛金を自分で積み立てて運用した方がよほど利益がでるのです。

 

全て損と言いましたが、一応、保険が得になる場合もごく一部にはあります。賭けそのものとしては例外なく損なのですが、税金を考えるとお得になる場合です。けれどそれは高額な所得税や相続税を払わなければいけない場合なので、年収が数千万あるとか、会社経営しているとか、資産が数億円あるとか、そういう人たちの話です。一般の人たちにはとっては、保険は全て損と考えて間違いありません。

  • 保険は損だけど必要な場合もある

保険というのは全て損な賭けです。では入るのは無意味なのでしょうか?これは必ずしもそうではありません。確率としては0.6%でも、自分にとってはイチかゼロですから、もし自分が死んでしまったときに残された家族が路頭に迷うということであれば、これは例え損をしてでも保険に入っておく意味があります。例えば専業主婦と子供がいる家庭の大黒柱であれば、自分が死ねば残された家族が路頭に迷ってしまいますから、やはり生命保険というのは有意義でしょう。逆に、保険事故が起こっても困らないのであれば、保険は損でしかありません。例えば共働きで子供もいない夫婦では、例え一方が亡くなってしまったとしても、金銭的に困窮するわけではありません。こういった家庭で死亡保険に入るのはお金の無駄でしかなく、掛金分を自分で積み立てて貯蓄するなり投資に回した方がよほど有意義です。

 

がん保険は特に不要な人が多いように思います。がんになって入院したら医療費はおろか、その間の生活費すら払えない、という方には意味があるかもしれません。しかし医療費というのは高額療養費制度というのがあって、どんなに大きな病気をしても所得に応じて自己負担の上限額が定められているので、払えないほど高額になるわけではありません。また生活費にしたって、がん保険が支払われるまでには時間がかかりますから、どちらにしろ当面の生活費は貯蓄しておく必要があります。医療も進歩しているので、がんで何か月も入院する、ということはごく稀になってきました。日本人に多い胃がん、肺がん、大腸がん、膵臓がんで手術した場合、入院期間はいずれも平均2週間程度です。がん保険に入るよりは、その金額を貯金しておいていざという時の入院に備えておいた方が、ずっとお得なのです。

  • 自分に必要な保険を見極める

保険を売る側は商売なので、必要以上に不安を煽って来ます。将来こんな悪いことが起こるかもしれませんよ、それに備えておきましょう、というわけです。しかし備えておくなら、日ごろから自分で貯蓄や資産運用をしていく方がよほどお得なわけです。でも今手元に貯蓄が全くない、明日病気になったら路頭に迷う、こういう場合は損を承知で保険に入る意味があります。あくまで損な賭けだぞ、保険事故なんて起こらない可能性の方がずっと高いんだぞ、それでも自分に必要な保険だろうか?と冷静に考えれば、必要な保険かどうかが分かってくるでしょう。