白夜くんは初めてできた、同族のともだち。
そして、きっとゆくゆくはタマの恋人になる存在。
成長のきざしを見せ始めたタマには、もう恋はそんなに遠いものじゃない。
白夜くんのそばで、りなさんに見守られて。
なんの心配もない。
淋しいのはお互いさま。
おれは、今までの生活と一緒に、タマにも別れをつげる決心をした。
ワガママなタマは絶対に受け入れてくれないだろう。
おれは何も言わずに、当日までを今まで通り過ごした。
引っ越しの準備はしないわけにいかないから、はぐらかしながらだ。
「あたらしいおうち、いいとこだといいねー。」
タマは、自分も行くものだと思っている。
それはそうだろう。
おれは、きみをだましているんだな。
ささくれた爪のついた手が、ずっと胸の奥にしがみついている感覚。
それでも、このままじゃダメなんだ。
おれもタマも、変わるべきなんだ。
いつまでも立ち止まっていないで、進まなくちゃ。
「そうだね。」
かすかな痛みを無視して、おれは笑った。
当日、というのは引っ越し前夜だ。
手伝いもかねて、しょーちゃん、りなさん、白夜くんが集まりタマははしゃいでいた。
ひととおり荷物もまとまると、
「さて、帰るぞタマ。」
白夜くんが言い、タマは首を傾げた。
「うん、ばいばいビャクヤ。」
白夜くんは目を見張り、一瞬だけきょとんとしたあと、それはそれは恐ろしい顔でおれをにらんだ。
「ヨシアキさん、何も話していないな?」
おれは、ごまかすように笑いながら認める。
「うん、だってタマの説得は一人じゃ難しいもの。」
「違いねえ。」
しょーちゃんも笑う。
空気に気付き、タマが不安げな目をおれに向けた。
「ヨシアキ?」
「タマ、今日からは白夜くんたちと暮らすんだ。」
切り出すと、思った通りの反応が返ってくる。
「やだよ、タマはずっとヨシアキといっしょ!」
イヤイヤをするタマを見ていると、離れたくない気持ちに流されそうになる。
そんなおれの背中を押してくれる低く押さえられた声。
「ヨシアキ。」
しょーちゃんの顔をみるまでもなく、おれはうなずく。
すがり付いてきたタマの頭をなでてやり、問いかける。
「白夜くんは、好きだろ?」
「ヨシアキのほうがひゃくまんばいすきー!」
思いっきり大きくて、でも泣きそうな声。
怖くて白夜くんの顔は見れない。
後日しょーちゃんは、アイツ泣きそうな顔してたぜ、と笑っていたけど。
「そんなことないだろ、白夜くんともう会えないとしたらどうする?」
「ぜんぜんへいき。」
即答するなよ、タマ。
だけど、それこそおれが言いたいこと。
「じゃ、おれと会えなくなるのは?」
「しんじゃうよ!」
本当に、本当に白夜くんが怖いからもう少し言い方を考えてほしい。
でも、これがタマなんだよな。
この子の頭にはおれしかない。
今は、今までは。
「でもね、いつかそんな日がくるんだ。
タマは会ったときからずっと変わらないよな?
だから、どれだけ生きてるかも、この先どのくらい生きるか見当もつかない。
だけどおれは、タマたちと違って人間だからさ、先に…死んじゃうんだよ。
だから」
その先は、叫びにもにたタマの声でさえぎられた。
「じゃあタマもしぬ!」
おれは、とうとう泣き出した小さなタマを思いっきり抱き締め、自分でも驚くくらい大きな声を出した。
「絶対だめだ!」
腕の中で小さな体がびくりと震えた。
怯えたのか、黙ってしまったタマにそっと話しかける。
「おれは、おれがいなくなった後でもタマには笑っててほしい。」
いつもなら茶化してきそうなもんなのに、しょーちゃんはなにも言わない。
りなさんはきっといつも通り、おかあさんみたいな顔で見守ってくれているのだろう。