「白夜くぅん。」
りなさんが呼びかけると、狐の像の後ろから少年が現れた。
タマが言っていた通りの白い髪は柔らかそうで、少し長めだ。
きつくつり上がった目は綺麗な水色で、外国人のようだが、どこか狐の像に似た顔つきをしている。
「白夜くん、”あの”ヨシアキよ。」
りなさんがおれを紹介してくれた。
あの、って言うのは、きっとタマが言っていた話だろう。
「私は白夜という。あなたがヨシアキ殿か。」
すごくじろじろ見る。
そりゃそうだろう、向こうはおれをゲイだと思っているのだから。
「この神社っておいなり・・・さんですよね?」
「そう、あたしがお稲荷さん。
でも内緒よ?」
唇の前で人差し指を立てて、りなさんは笑った。
そして今度は白夜くんのほうを向く。
「それから白夜くん、どのってヘンだから。
ヨシアキさんってお呼びしなさい。」
無表情にその言葉を受け止める白夜くん。
「では、改めてヨシアキさん。」
「うん?」
「タマを私に頂きたい。」
顔色一つ変えずに、唐突過ぎる爆弾発言を繰り出した。
「じょっ冗談じゃない!!君とタマじゃぜんぜんトシがっ」
おれの方は顔色がかわりまくっている事だろう。
「そうよねー。
あたしもこのロ●ペド野郎っ!って怒ったんだけどー。」
明らかに他人事、しかも少し面白がっている気配さえあるりなさん。
思わず、ちょっとにらんでしまった。
口元を押さえて目をそらしたりなさんは、たぶんちょっと笑っている。
そして、おれの気持ちなんかまるでわかっていない白夜くんは、勝手な物言いを続ける。
「我らのようなモノに年など関係ない。
タマにしたとて、みかけ通りの年ではないのだから。
ヨシアキさん、どうしても許せぬというなら、私はムリヤリにでも」
乱暴な話になりかけたところで、保護者が口を出した。
「ストーップ、白夜くん。
あたしの前でそんなロウゼキ働かせないわよ?」
「おれだって、黙って渡すもんか!
タマがいいっていうなら別だけど。」
おれに迫力がなさすぎるせいか、白夜くんは平気な顔でなおも言う。
「いいと言うはずだ。
神の使いたるこの私に不満などなかろう。
知も力も備え見た目もこの通りだ、何か足りないところでもあるか?」
おれだけでなく、白夜くん側のはずのりなさんまでもがドン引いていた。
「白夜くん、それがきみの欠点よ。」
小声で、こういう子なんですか?と聞いてみると、りなさんは残念そうにうなずいた。
「?」
とりあえず、言い返しておこう。
「いいなんて言うわけない。
タマはおれのことが好きなんだから。」
おれの発言を変な意味にとって、りなさんが一歩あとずさった。
「やだっロリ●゚ド野郎が増えたっ!」
「さっきからなんですかそれ。
まあいいや、白夜くん。
悪いがおれたちの絆は、ホンモノの家族と同じだ。
だから後から来たきみにいきなりその家族を渡せるわけもないし、タマだってウンと言うはずがないっ。
タマは、渡さない!」
はっきりと、持ったことも無い娘に対する感情が自分の中に湧き上がるのを感じた。
結婚もしていないのに、おれは父親になってしまったようだ。
「あらぁ、カッコいいこと言えるのね。
見た目は頼りないけど。」
「さっきから面白がってますよねりなさん!」
「ふむ、家族か・・・。」
考えている様子の白夜くんに、はじめておれの言葉が届いた気がした。
タマの事を好いてくれるのは嬉しい、だけどもっと・・・段階をふむべきだと思うのだ。
タマは、どのくらい生きてるかわからないにしても、見た目どおり中身も子供なのだし。
「白夜くん、あたしね、さっきも言おうと思ったんだけど。」
急に、りなさんが真面目な口調で話し出した。
「はい。」
「ヨシアキに、ちゃんと納得してもらってからタマちゃんと一緒んなんなさい。
あなたの気持ちがホンモノなら、いつかヨシアキはわかってくれる。
そういう人に見えるわ。
もしわかってもらえなくても、人間の一生なんて短いんだから、待ちましょ。
白夜くんは一人でなんでもできるぶん、他の人の気持ちがわかってない。
他者に対する思いやり、みたいなものがぜーんぜんないわ。
だから、きっとこれもいい修行になる。ね?」
優しく諭すりなさんに、白夜くんはよくわからないといった表情を返した。
「はぁ。」
教育とは、根気のいるものだ。