そのかわり、タマはちゃんと納得してくれた。
「ビャクヤのかんちがいだったんだねー。
よかったぁ、タマあんしんした。」
タマはニコニコと言った。
だが、おれは安心できない。
「んー、まあね。
でもおれたち今日、白夜くんに会えなくて。
誤解されたまま、っていうのがちょっと、ね。」
「またどんなデタラメ吹き込むかわかったもんじゃねえからな。」
おれの不安をそのまま口にしたしょーちゃんを、タマがキッとにらんだ。
「ビャクヤはデタラメなんかいわないもんっ、タマのおともだちなんだから。」
「実際デタラメだったろ、オレたちのことは。」
「デタラメじゃなーいもーんっ」
タマのゴキゲンが斜めになり始めた。
「そうだよな、カン違いだよなタマ。」
表現をおきかえてなだめる。
「そうだよー、ショウリなんかバーカ。」
タマはしょーちゃんをにらむ。
「はーめんどくせー。」
文句を言ってしょーちゃんは部屋の時計を見た。
「そろそろ帰るか。」
夕食も済ませ、夜が更けてきていた。
「もうくんなー。」
タマはおれに隠れながらしょーちゃんに毒づく。
「こらこら、タマ。いくらしょーちゃんだって傷つくかも知れないだろ?」
「気にするかよ、じゃ、“またな”。」
「くんなー。」
言いながら、しょーちゃんとタマはお互いにらみ合っていた。
誤解は解けても、二人の仲はよろしくないのだった。
◆
数日後、おれは家の近所であのときの犬をみかけた。
落ち着いて観察するとゴールデンレトリバーと、他にいくつか混じったミックス犬に見えた。
最近ではあまりみかけないが、いわゆる野良犬ってやつなんだろうか。
保健所なんかに連れて行かれたら大変なことだ。
首輪でもつけてないか見てみようと、おれは舌を鳴らして呼んでみた。
用デモアルノカ ニンゲン
頭に直接、文字が浮かんだ。
初めての感覚と、それがこの犬によってもたらされたと言う事におれは混乱した。
大混乱だ。
「え?ぁ?あ、え何これっ、え?え?え?」
さらに犬の言葉が送られてくる。
腹ガ減ッタナニカ食イ物ハアルカ?
「腹・・・?っと、今はなにも」
ナケレバオマエヲ・・・
「わー待った!待ってて何か買うから!」
すぐそばのコンビニへ駆け込むと、おれは魚肉ソーセージを買った。
極太のやつだ。
おれがコンビニにいる間、犬はずっとガラスの向こうからこちらを監視していた。
コンビニから出てすぐ包装をむいて魚肉ソーセージを与えると、犬はがつがつと瞬時にたいらげた。
舌で口のまわりをペロリと一周なめてから、路上をくんくんして残っていないことを確かめると、犬はおれを見た。
ヨカロウ、デハオ前ノタメニ働コウ
ダレカ殺シタイ人間ハイルカ?
「はぁ?!」
突拍子も無い申し出に、おれは声をあげた。
状況を把握できずに混乱していると、声をかけられた。
「ヨシアキっ、ヨシアキじゃない。」
楽しげな女の人の声。
見ると、りなさんだった。
「あぁ、こんにちは。」
りなさんは、おれが一人なのに気づくと、
「あれ?こないだの怖いおにーさんは?」
と訊いてきた。
「ああ、この辺の人間じゃないんですよ。」
「そっかー・・・ってあ!犬神!!」
りなさんはふと犬を見つけて、驚いておれの影に隠れた。
保食神・・・。
犬の思考が、また文字となっておれの頭に浮かぶ。
「いぬがみ?ほしょくしん?」
ききなれない言葉を、おれは復唱してみる。
りなさんと、犬神と呼ばれた犬がそれに答えた。
「そう、そいつはただの犬じゃなく犬神っていう、妖怪みたいなもんなの。」
保食神。
食イ物ノ神ノクセニ、アノ時飢エタワレヲ見捨テタ。
おさまりかけた混乱がぶりかえし、悪化した。