「なあ、しょーちゃん何も感じないの?」

 「ああ、前に言わなかったか?

 全然レベルが高い相手だと、こっちに感知できないように上手く隠れちまったりするもんなんだ。

 タマの話通りなら相手は神の使いだから、ちょっとカンがいいって程度じゃ見つけられないだろうな。」

 そんな話をしていると、どこからか声が聞こえてきた。

 「白夜くん?」

 「いや、これは女の声じゃないか?」

 しょーちゃんは声がする方へ顔を向けた。

 おれもつられてそっちを向く。

 「い~~~~やぁ~~~~~!」

 女の人が走ってくる。

 いつも通りの顔、特に何の表情を浮かべることもなくおれの隣でしょーちゃんはそれを見ている。

 でも、たぶん・・・。

 「助けてぇ!」

 女の人がおれたちを見つけて言った。

 後ろから犬が追いかけてきていた。

 犬が太い声で吠えると、女の人は小さく悲鳴を上げた。

 しょーちゃんが駆け出す。

 おれは後に続き、とりあえず女の人と犬の間に入った。

 同時くらいに、しょーちゃんが犬の横腹を蹴った。

 あまり強くやってはいないはずだが

 「ぎゃぅんっ!」

 犬は一声鳴き、しょーちゃんと、おれの後ろの女の人をチラッと見比べると逃げて行った。

 しょーちゃんはこちらに向き直ると、女の人に向かって無愛想に声をかけた。

 「行ったぞ。」

 「大丈夫ですか?」

 おれも振り返る。

 女の人は、少し安心した顔で、ありがとう、と言った。

 そして、しょーちゃんはおれの思ったとおり、ぽちゃっとしていて可愛いといえば可愛い方の彼女の顔には目もくれず、大きな胸だけをガン見していた。

 「しょーちゃん、しょーちゃんってば。」

 おれの声にも無反応で、真剣に見入っている。

 確かに、彼女の胸はちょうどしょーちゃん好みの大きさで、しかも胸元がかなり大きくあいた服を着ている。

 だからってそんなにあからさまに見つめていいもんじゃない。

 おれは拳で軽くしょーちゃんの肩をたたいた。

 「こら。」

 「ん」

 女の人もさすがに気づいたらしく、しょーちゃんの顔を見た後、自分の胸に目をやった。

 大人として恥ずかしい展開を覚悟すると、意外にも彼女は軽く微笑んだ。

 「それで、助けてくれたの?」

 そう言われて、どう感じたのかしょーちゃんはピクリと眉を動かした。

 「別に。何も期待したワケじゃねぇよ。」

 なんて言い草だ。

 胸をじろじろ見てた自分が悪いくせに。

 失礼な行動だけど、しょーちゃんに謝罪は期待できそうもない。

 「おい、そんな言い方ないだろ?

 すみませんね、失礼な奴で。」

 代わりに謝るのは慣れていた。

 「いいわよ、別に。

 お礼がわりに、さわらせてあげようか?」

 いたずらっぽくしょーちゃんに微笑んだ女の人に、おれは

 「はぁ?」

 と声をあげてしまった。

 しょーちゃんは顔色を変えない。

 「ちょっとくらいさわらしてくれたって、なあ?

 今日はカンベンしといてやるから、次あったとき倍返しで頼むぜ、オネーチャン。」

 しょーちゃんの言葉に、女の人は笑顔をひっこめた。

 さすがに調子に乗りすぎだろう。

 おれは焦ったが、実はそういうことでもなかったようだ。

 「オネーチャン、じゃないわ。」

 それは、子供をたしなめるような口調だった。

 「何だよ、意外に年いってんのか?」

 「しょーちゃんしょーちゃんしょーちゃんっ!」

 良い奴・・・のはずなんだけど、どうしても口というか態度というかガラが悪い。

 「そうね、それもあるけど・・・」

 女の人は、しょーちゃんの目を見つめる。

 「あたしはね、りなよ。」

 「名前一つでずいぶんもったいぶる女だな。

 教えてくれなんて言ってないぞ。」

 「しょーちゃぁん、いい加減にしろって。

 失礼だろさっきから。ずっと!」

 たしかに、タメてるみたいな、考えてるみたいな間はあったのだけれど。

 「いいのよ、お兄さん?」

 こっちを見て小首を傾げたりなさんに、おれはまだ自分が名乗っていなかったことを思い出す。

 「あ、山形といいます。」

 「山形?」

 疑問形で先を促される。

 「義晃、です。」

 よくできました、と言いたげにりなさんが微笑む。

 「そう、ヨシアキね。

 じゃ、ヨシアキ、しょーちゃん、ありがと。」

 おれがそう呼んでいたからだろう、いきなりしょーちゃんと呼ばれたしょーちゃんはそれを訂正した。

 「祥利だ。いきなり馴れ馴れしい女だな。」

 「おまえの失礼加減には及ばないだろ。」

 とりあえずおれは、りなさんの名誉のためにツッコんでおいた。

 助けたからって、何を言ってもいいってもんでもない。

 とはいえ、いつもしょーちゃんはこうなのだけど。