「ショウリがくるなら、タマいかない!」

 ぷんぷん怒って自室(じつは半分くらい物置にも使われている)に閉じこもってしまったタマを、なだめすかしてオヤツで釣って、おれは何とか稲荷神社の場所を聞き出した。

 デートじゃない、というのはとうとう信じてもらえなかった。

 「そうか・・・残念な奴。」

 外出用にきちんと寝癖を直し、ヒゲも剃ったしょーちゃんは、笑いをかみ殺した複雑な表情でおれを見て言った。

 「誤解されてるのはおまえもだよ。」

 おれは怒ったフリをしながら、しょーちゃんにツッコんだ。

 「はっ、お前の過剰な女性ホルモンの犠牲者だよ、オレは。いい迷惑だ。」

 「あいたっ」

 額を強めに指で弾かれ、おれは思わず声をあげた。

 「もー、すぐ痛いことすんのやめろよな。」

 この抗議も何万回したことか。

 ついぞ、しょーちゃんがそれを聞いてくれることなどなかったが。

 これからも、多分ない。

 「指導だ指導。」

 当たり前の事に、反省などない。

 やり返すと、もう一度痛い思いをすることになる。

 キリがないので、おれはたいてい泣き寝入りすることになっていた。

 「まあ、このくらいならいいけど。」

 不用意な事を口にしてしまった、とおれが気づいたのは、しょーちゃんが少し眉を持ち上げた後、ゆーっくりと目を細めてからだった。

 「へーえ。」

 「・・・なに?」

 しょーちゃんのこんな顔は、きっとロクでもないことを考えてる。

 「じゃあ」

 しょーちゃんの指がおれの両頬をつまむ。

 「ふぇっ?」

 そのまま、じわっと力をこめる。

 「どこまでならいいのか」

 「ひぃ、いだっ痛いぉ、ひらいっ(痛い)いーーー!」

 しょーちゃんは、しゃべりながらその手を左右に力いっぱいひっぱる。

 「試してやるっ、おらどうだっ!

 ちぎれそうか?ちぎってやろうかぁ?!」

 神社へ向かう道の途中大騒ぎする俺たちを、多くはないものの通行人が振り返っていた。

 涙が出るまで頬を引き伸ばされ、おれは昔話の「こぶとりじいさん」を思い出した。

 一方しょーちゃんは変にギラついた目でひとしきりおれに暴行を働き終えると、今はすっきりした顔をしていた。

 いつもこんなとき思う。

 「ねぇ、しょーちゃん。」

 「ん?」

 穏やかな表情は、まるでさっきと別人だった。

 「しょーちゃんてさ、本当はおれのこと嫌いなんじゃないの?」

 そんなこと無いのは知っていても、どうにもこの理不尽な暴力がいつも少し納得できない。

 「・・・どうだろうな?」

 わざと無表情を装って答えたしょーちゃんは、だけど目がちょっと笑っていた。

 「否定しろよぉー!もぉー!」

 軽く突き飛ばすとしょーちゃんは笑いながら少しよろけた後、

 「おい、ここじゃないか?」

 と ななめ前を指差した。

 誰も居ない、小さな稲荷神社だった。

 社の中には何か収められているようだが、人が入れるほど大きくはない。

 「白夜、いるのか?」

 しょーちゃんが大きな声で、どこへともなく呼びかけた。

 白夜くん、という名前は聞いていた。

 白い髪のお兄ちゃん、というから少年なのだろう。

 タマの話だと、狐の像の中にいるのだという。

 「どっちの像なんだか。」

 狐の像は二つあった。

 狛犬と同じで、二つセットなのだろう。

 数歩奥に居たしょーちゃんが、おれを振り返る。

 「なんだ、そん中なのか?」

 おれが触っている像を見て言った。

 「いや、どっちか聞いてなくて、わからないんだ。」

 「じゃオレはあっち見てみるか。」

 「そうだね。」

 しょーちゃんはもうひとつの狐像に近づくと、いきなりそれを掌で叩いた。

 「おい白夜、いるのか?白夜。」

 ぱしぱしと像を叩くしょーちゃんを、おれは慌てて止めた。

 「しょーちゃん、もっと穏便に。

 怒らせたらどーすんだよ、怖い奴かも知んないだろ?」

 「はァ?知らねーよ。

 人を変態よばわりした小僧に気ィ使う義理はねぇ。

 それに、あのワガママなタマと遊んでやるくらいだから、ヌッルーいヤローだろどーせ。

 つーか・・・よく考えたらむこうの方がロリコン趣味の変態野郎なんじゃないか?」

 「失礼だ、って言いたいんだ、おれは。

 変な誤解もあったけど、タマに優しくしてくれた相手だし、うまく付き合っていけたらいいなって思ってるんだ。

 ただ、人間じゃないから・・・もしかしたら、本当に怖い目にあう場合だってあるかも知れないぞ。」

 これはしょーちゃんへの警告というより、おれ自身の不安を打ち明けているに近かった。

 だからこそ、誤解をとくなんて理由をつけて多少なりともユーレイやなんかに強いしょーちゃんをつれて来た。

 おれに見えないものを見て、感じるしょーちゃんは危ない目にあわないですむ方法を知っている。

 それらを、避けること。

 見えていればカンタンだ。

 実のところ、ちょっとだけ、助けてもらおうと期待してついて来て貰っていた。