「ああいう感じがお好みなんですか?」
ランコントルの女の子は、みんなわたしより年下でピンクの可愛いミニスカートの制服を着ている。
やっぱり男の人だから、若ければ若いほうが好きなのかな。
「そうですね。」
笑顔で答えていいことじゃない気がする。
でも、わたしのことはただの隣人として、あまり気にしていないだけなのかな。
それにしても、ちょっと見損なった。
おとなしくていい人そうっていうのは、わたしの勝手な想像だったかもしれないけど、思ったよりエッチな人なんだ。
がっかりしていると、山形さんは続けた。
「まー、男で甘いモノ好きって、あんまりカッコよくないですけどね。」
情けなさそうに眉尻を下げた彼を見て、わたしは誤解に気がついた。
「あ・・・そっち、ですか?」
「何が?」
きょとんとした顔で問い返されると、こっちが恥ずかしい。
「え、いえ。女の子が可愛いって、いう、ので。」
しどろもどろに説明すると、山形さんはあわてた。
「は、ぇ?えぇ?!」
大きな声に驚いていると、山形さんの顔がだんだん赤くなっていく。
「ごめんなさい、失礼しましたっ。
変なこと、きいちゃって・・・怒っちゃいましたか?」
どうしよう、怒らせてたら。
焦りで顔が火照る。
わたしの顔も赤くなってるのかな?
山形さんはあわてて否定してくれた。
「そんなっそんなわげねゃっないですっ。」
言えてないけど、意味はわかる。
どうしよう、謝ってるのにちょっと笑っちゃいそう。
こんなタイミングで噛まないでほしい。
わたしは、山形さんに悟られないように唇を噛んだ。
山形さんは口元を手で押さえる。
「すみません。
でもおれ、別にああいうのが好きってわけじゃないし、かと言って怒ってもいませんから。」
山形さんは口元を隠したまま、言い間違えないようになのか、ゆっくりとそう言った。
「あ、よかった。安心です。ふふ。」
わたしが笑うと、山形さんも笑った。
また少し仲良くなれたな、と思った。
その時、山形さんの背後、部屋の奥から何か気配を感じた。
にらまれているような居心地の悪さが、急に私を包む。
どこからともなく肌に悪寒が染みる。
これ以上ここにいたら、何か悪いことがおきる。
何の根拠もないのに、強くそう思った。
具体的に何か起きたわけじゃないのに、とにかく怖い。
怖くてしょうがない。
目の前で山形さんは、何も気づかず朗らかに笑っている。
でも、この部屋は、この雰囲気はおかしかった。
何か、いる。
わたしには、霊感らしきものがあるらしい。
見えたりするわけじゃないけど、“そういう”場所で確実におかしな何かを感じることはあった。
ちょうど、今のように。
だけど、それだけ。
何か出来るわけじゃない。
だから、ごめんなさい山形さん。
「じゃ、わたしこれで失礼します。」
逃げるように、ではなく、わたしは本当にただそこから逃げ出した。
「うん、ありが・・・」
何も知らずお礼を言う山形さんの声を、最後まで聞き取れないくらいに急いで。
ドアを閉めると、不思議なくらい何も感じなくなった。
わたしは、山形さんの部屋を振り返った。
玄関先とはいえ、少しでも入ったのは今日初めてだったけど、隣があんなに怖い部屋だったなんて。
外で話しても、山形さんに何か感じたことなんかなかった。
だから、おかしいのは部屋のほう。
あんなところ、と言ったら失礼だけど、よく2年も平気で住んでいられたと思う。
何も感じない、霊やなんかとは一生かかわりのないタイプの人なのかもしれない。
そういう人には向こう側(霊)も関わろうとしてこない、らしい。
前に、オカルト好きの妹が言っていた。
わたしも、感じても気にしなければいいのだろうけど。
「でも、怖いものは、怖いもん。」
逃げてしまった言い訳を、小さくつぶやく。
ふわっとしてて優しい山形さんの、何も気にしなさそうな人格が今は少しうらやましかった。