「ああ、そうだな、そうしよう。
済まなかった、泣かせてしまって。」
涙が落ち着き始め、タマが答える。
「タマも、キライってゆって、ゴメンなさい。」
「良いのだ、悪かったのは私なのだから。」
私が苦笑すると、タマも少しだけ笑った。
「なかなおり?おともだち?」
そっと、遠慮がちに訊いてきた。
「そうだな、宜しく頼むぞ。」
私は微笑みかけた。
今はそれで良いのだ。
愛は、タマにはまだ難しい。
「やったー、えへへ。」
タマは、やっとまた元通り明るい笑顔を見せた。
文句なしに愛らしかった。
話していると神経が磨り減っていくが、それでも帰したくないと思えた。
「ねぇねぇ。」
「ん、何だ?」
「ワタシのおニィちゃんは、おなまえ、なんてゆーの?
タマはねー、タマだよ。」
「名前、か。」
我等は白狐と呼ばれるが、“まとめて”白狐でしかない。
それは名前とは少し違うが、近くには私の他に白狐は居ない。
「白狐だ。」
私はそれを名前とする事にした。
「ハクコ?」
「そうだ。」
「げろ?」
「げ・・・何だと?」
「いつもきもちわるいの?」
私は会話の内容に大きな擦違いを感じた。
少し考えて、思い当たる。
吐く、子・・・?
「タマ、今のは忘れてくれ。」
「だいじょーぶぅ?だいじょーぶぅ?」
心配している所を見ると、私が本当に吐くと思って居るのだろう。
ややこしい。
別の名を考えよう。
「白夜、だ。白夜と呼ぶが良い。」
陽の沈まぬ、白き夜が有るという。
白からとっさに連想したものだが、神秘的な響きは私に相応しい。
「ビャクヤ?」
「そう、白夜だ。」
ふぅん、とタマは言い、嬉しそうに笑った。
「ビャクヤとタマ、きょうからおともだち。」
「ああ、そうだ。」
そこへ、不意にあの方の声が割り込んだ。
「びゃくや?それってあなたの名前?」
「稲荷神様、いらしていたのですか。」
「いい名前ね、白夜くん、か。」
稲荷神様は、優しく微笑んだ。
◆
タマが居ない間、ヨシアキはせっせとおイナリさんを作っていた。
山盛り作って他におかずとおツユを仕上げ、ダイニングテーブルに突っ伏してうたた寝こいてるところへ、やっとタマが帰ってきた。
もう夕方になっていた。
「タダイマー。」
「あぁ、おかえりタマ、遅かったね。
ごめんな、怒った?」
外へ出ても、用心のため、と人間に話しかけたりしないように言われているタマは、友達がいない。
ヨシアキを待ちきれなくて出て行ったものの、遊ぶ相手もいないはずなのに、タマはゴキゲンだった。
「おかえりぃヨシアキー、あのねタマね」
話そうとして、山盛りのおイナリさんに気付く。
「わぁーおイナリさーん!ヨシアキダイスキー!」
飛びついてきたタマを抱きしめ、ヨシアキは
「おれもタマが大好きだよ。
ちょっと早いけど、ゴハンにしちゃおうか。」
と言った。