「タマ、いいこしてあげよーか?」

 「良い子・・・?」

 「しゃがんでー。」

 意味も解らぬまま、私はとりあえず従ってみる。

 何をするのか、少し気になった。

 するとタマは、私の頭を撫でてきた。

 成程。

 良い子、は撫でてやるものだ。

 「これで頭痛が治るのか?」

 一種の呪い(まじない)であろうか。

 「ズツー?」

 タマが訊き返した。

 「頭が痛いことを、そう言うのだ。」

 「ふーん。」

 「で、治るのか?」

 「ヨシアキは、よくなったよーってゆうよ。」

 「ヨシアキ?」

 急に出てきた男の名。

 「それは、人間か?」

 他の狐ということも、考えられなくはない。

 そしてそれは、タマの伴侶であるかも知れぬ。

 子供に見えて、妖怪の年は判らないものだ。

 私は興味を引かれた。

 「ヨシアキはねー、ニンゲーン。」

 それを聞いて安心した。

 そうであれば、種族の壁は障害となってくれる。

 と考えて、気付いた。

 知らず、淡い焦りを抱いていた事に。

 タマを我が物としたい、そう思い始めていた事に。

 同じ狐だからに過ぎぬであろうが、私を頼ってきた事が好ましく思えたか。

 それとも、容姿の美しさか。

 はたまた、目映いばかりの笑顔を惜しまぬことか。

 それに、私を心配もしてくれた。

 どれが理由なのか。

 何が私を捕らえた?

 不可解な気持ちを自問する。

 否。

 どれではない。

 全てが好ましいのだ。

 考え込むあまり黙っていた私を、タマが覗き込む。

 「どしたのー?おハナシしよー?」

 退屈させてしまったようだ。

 「あぁ、ああ、そうだな。

 では質問させてもらおう。

 タマ、そなたはヨシアキとやらに使役・・・

 使われておるのか?」

 タマにも解るよう、使役という難しい言葉を易しく言い換える。

 「ツカう?」

 それでも訊き返されてしまった。

 タマとの会話は骨が折れる。

 しかし、伝わる事に喜びを見出せる。

 それはささやかだが、それでも、当たり前の事が有難いのだ、と小さなタマに教えられている気がした。

 私は、伝わらなかった言葉を、もう一度噛み砕いてタマに差し出す。

 「命令されて働かされる、というような事はないか?」

 「えっとねー、ゴハンのあとおサラもってきてー、って、ゆうよ。」

 「お皿?」

 今度は私が訊き返す。

 「うん、おサラ。あとはねー、いいこにしてなってゆうよ。

 いいこにしてるとねぇ、おイナリさんつくってくれるー。」

 どうやら式などとして使役はされていないらしい。

 だが新たな疑問が生まれた。

 食事の後に皿を持っていく、というのはもしかしたら片付けの手伝いなのではないだろうか。

 そして、良い子にしていると好物を作ってくれる。

 それは・・・。

 「タマよ、母親・・・おかあさんではないのか、それは。」

 「タマ、おかあさんいなーい。

 ヨシアキのことでしょー?」

 話がずれている、と言いたげにタマが私を見る。

 ではタマは、母親のような男に、子供として育てられているのだろうか。

 母のような男。

 おそらくは、おかまという種類の人間であろう。

 最近急に増えだした。

 だが奴らとて、変わってはいるが決して人外ではない。

 同じ人間だ、心根の優しい者もいるだろう。

 女のように生きてはいても、子供は望めぬ体。

 タマを娘の代わりとしているのやも知れぬ。

 そうに違いない。

 合点がいった。