私を見上げた小狐の目は、辛うじてまだ涙をこぼしてはいない。
私は、安堵した。
小狐が問うてくる。
「・・・おニィちゃん?おジィさん?」
訳の解らぬ問いに、私も問い返す。
「私が老人に見えるのか?」
己の能力に自信はあるが、それでも目指す高みを思えばまだまだ未熟だ。
我等のような“人ならぬもの”の姿は、その持てる力を反映するのが普通であり、修行中の身である私の姿は十代後半あたりに見える筈だった。
小狐は答える。
「だってアタマしろいよー?」
成程。
白髪は確かに老人の特徴でもある。
「これは私の毛並みだ。」
私は白い狐の姿に変わって見せる。
「わぁ。」
小狐が嬉しそうな声を上げた。
珍しい白狐の姿を人に見られても厄介なので、すぐに人型に戻る。
小さい無人の社の守りは退屈だが、人気のない事はこういう時に便利なのだ。
「おイナリさん?」
「違う。私は、その使いだ。
お稲荷さん、とは此処に祀られている神様であって、
狐の事ではないのだ。
だから小狐よ、そなたもお稲荷さんではないのだ。
覚えておくがいい。」
私が教えてやると、小狐は一人前に反論してくる。
「コギツネじゃないもん。タマだもん。
タマはイイコだから、
おーきくなったらおイナリさんになるんだもん。」
成程。
善なる狐であるから、お稲荷さんである、という理屈らしい。
だが、間違いは間違いだ。
「ではタマよ、改めて教えてやる。
狐とお稲荷さんは別物だ。
もっとも、そなたが今後も“良い子”でおり、
尚且つもっと力をつけるならば
私のように稲荷神様に仕えることもできよう。」
うっすら口を開けて私の話を聞いているタマの目は、もう潤んではいなかった。
「そっかー、タマ、おイナリさんじゃないんだねー。
ザンネン。おイナリさんだいすきなのになー。」
「ほう?なにゆえだ。
あの方に会った事でもあるのか?」
「ううん、だって、オイシイでしょ?」
やはり私は、子供が苦手だ。
話について行き切れない。
「・・・タマよ、どこまでが神様で、
どこからが食べ物の話だったのだ?」
呆れた顔をしているであろう私に、タマは笑顔を見せた。
「わかんない。」
可愛らしくはあったが、それは私の混乱を取り除く役には立たなかった。
「私はもっとわからぬ・・・」
私は、己が思う程賢くないのかも知れぬ。
情けなさに、眉間を押さえて耐えた。
タマが気づかう声をかけてくる。
「どしたの、アタマいたいの?」
「あ、いや」
そんな気がする事はするのだが、実際に痛みはない。
タマにはそれが解らぬらしい。