いつまでも“ぼく”なんて言ってる子供じゃダメなんだ。
おれは言い直した。
「タマはおれの妹なんだぞ?
お兄ちゃんは、妹にそんなことしたりしないんだ。
わかるだろ?」
おれはタマのお兄ちゃんなんだから。
弱っちーお兄ちゃんじゃ、妹は守れない。
「じゃあもうイモートやだ。おニィちゃんなんてやだ。」
「じゃ、家族じゃないから一緒に住めないじゃないか。」
ダダをこねだしたタマに困ったおれは、少しだけ脅かす。
「やだー、どっちもやだー!」
脅しても全く解決しない。
おれは少し考えた。
今までと同じようにいたいだけ、それをどう話そうか。
「タマ、おれは妹としてタマが好きだよ。」
「イモートやだぁ。」
「でも、大好きだよ。ずっと可愛いって、言ってきたよね?」
「うん。」
タマはとりあえずうなずいてくれた。
「今までおれと一緒にいて、タマは不満だった?」
「ううん。」
タマは首を横に振った。
「おれは、楽しかったよ。一緒にいれてよかった。」
「タマもー。」
タマは、笑った。
やっぱりその顔は可愛くて、だけど抱きたいとかそんな気持ちには絶対なれない種類の感情。
「じゃ、今までどおりでいいんじゃないかな?
変なことしたいっていうなら、
おれはタマと他人でいなきゃならない。
妹だって可愛がったりできないよ。そのほうがいい?」
タマの表情が曇り、不安そうな顔に変わる。
「やだ、やだやだっそんなのゼッタイやだ!」
懇願するように抱きついてくる。
小さな頭をなでてやる。
「大丈夫、今までどおりにしてればいいんだから。」
「うんっ。タマ、それでいい。がまん。」
見上げてくる顔は笑っていたが、瞳にはひとかけら、切なさが見えた。
ちくん、と。
かすかに胸がいたんだ。
おれにとっては今までどおり。
だけど、タマには我慢。
ワガママに見えて、これでもタマはたくさん我慢している。
この家では、おれがいないときは姿を消して息をひそめていなければならない。
おれ以外の家族とは接触しちゃいけない。
したがって話し相手はおれか、時々遊びにくるしょーちゃんくらいしかいない。
だからたぶん友達もいない。
隠れてTVくらいは見ていても、退屈な時間はきっと多い。
ご飯も抜きで、オヤツを少し分けてもらえるだけ。
たくさん、たくさん我慢してやっとここに居られる。
そのタマに、また我慢を増やすことになる。
「ごめん・・・だけど、大好きだよ、タマ。」
おれの言葉に、タマの表情はさらに曇った。
「ヨシアキ、かなしいの?」
「え?」
顔に出ていたのだ。
おれは、笑って見せた。
「ううん、平気だよ。」
それで、タマも笑ってくれた。
「ちいちゃいタマが、大好きだよ。
ずっと、そのままでいいんだからね。」
「うん、タマもヨシアキ、ダイスキー。」
抱きしめてやると、タマはいつのまにか出ていたふさふさのしっぽを嬉しそうにゆらした。
次の日、ポスターのことを正直に話して謝ると、しょーちゃんは最初驚いていたが、やがて真顔に戻り、
「泣かせたか・・・悪かった。ごめんな。」
謝ってくれた。
◆
「ヨシアキー。」
パソコンをいじりながらショウリは少しうんざりした声を出した。
「ん?」
そのショウリをじっとみていたヨシアキはビールを口にふくみながら返事をした。
ショウリは顔をパソコンにむけたまま、言う。
「うすら笑いうかべて人の事見てんじゃねえよ、気持ちわりぃ。なに考えてんだお前。」
ヨシアキはむっとして言い返す。
「そーいう言い方するから誤解されるんだよしょーちゃんは。」
「誤解?」
ショウリはヨシアキを振り返る。
ヨシアキの顔は、笑っていた。
「本当は優しいくせに。」
「ホントに気持ちわりぃ事言うんじゃねえよ。」
ショウリはヨシアキの頭をはたいた。
動いた拍子に髪の隙間からのぞいたショウリの目は、少し照れた表情をのぞかせていた。