「違うっ、違うよタマ、ぼくはそんなの好きじゃないっ。」
真実とはいいがたい言い訳をして、おれは否定した。
「ヨシアキは、タマのことスキじゃないの?」
さらに答えに困る事を口にしながら、不満そうに見つめてくる。
「す、スキだよ?でもそういう意味じゃ」
「タマもヨシアキダイスキ!ヨシアキがうれしいことしてあげるー!」
ぎゅうぎゅう抱きついてくるタマの胸の柔らかさは、おれをダメにしそうだった。
「・・・。ぼく・・・おれはっ!
そういうのはあの子みたいなコとしたいんだ!」
すんでの所で踏みとどまり、おれはポスターを指差した。
しょーちゃんみたいに男らしくなったつもりで、自分を“おれ”といってみる。
そうすれば説得できる気がした。
何を言っているのかわからない。
タマはそんな表情をして一瞬呆けていた。
すぐに泣きそうな顔になると、元の小さな女の子に戻り(服も当然ふだん着に戻った)、ポスターに駆け寄った。
次の瞬間。
「ヨシアキなんか、ばかー!」
びりびりびりびりっ。
ポスターは音を立てて引き裂かれた。
これが、おれがタマの激しい嫉妬を初めて目にした瞬間となった。
「タッ、タマ!」
しょーちゃんは怒ったりしないだろうが、おれは慌てた。
「タマは、タマはヨシアキのこと、
スキなぁのーにー!」
言葉の途中から、真っ赤な顔をしてタマはポロポロ泣きだした。
妹みたいに、それでいて一番仲のいい友達みたいに思っていた小さなタマ。
タマの“スキ”は、最初からそういう意味だったのだと、おれはこの時初めて知った。
細く、高く、悲鳴に似た声を上げてタマは本格的に泣き出した。
そんなつもりじゃなかったのに、本気でタマを傷つけてしまった。
泣かせてしまった。
そのことに、おれ自身もまた傷ついていた。
泣き声が、心に痛い。
「ひぃーぃ、うっく、くーぅー・・・ふぇーーーー」
もう二度と笑ってくれないんじゃないかと思えた。
どうしたらいいかわからない。
ホワイトアウトはさっきの比じゃなかった。
「違うから、違うから、違うから・・・」
おれは早口につぶやいた。
今のこの状況全部を否定したかった。
「違うんだ・・・。」
立ち尽くす自分、泣いているタマ、破かれて垂れ下がったポスター。
おれは、タマにちゃんと説明しなきゃいけない。
凍りついた体が動き出す。
ポスターに手をかけて、おれはもう一度口を開いた。
「タマ、違うんだよ。あんなの嘘なんだ。」
涙で濡れた目が、おれを見る。
びりっ。
俺はポスターを乱暴に引き剥がした。
「こんな子、好きじゃないから。」
びりびりっ。
さらに細かく破き、丸めてゴミ箱に捨てる。
「タマのこと、泣かせるなんてっ」
言いながら、声が震えているのに気づいた。
目の奥が熱い。
「ごめんね、ごめんっ・・・」
謝っても、許してくれないかもしれない。
スキって言ってくれてた気持ちを、裏切ってしまった。
わかってなくて、ずっと裏切っていた。
嫌われるかもしれない不安に押しつぶされて、タマの気持ちを思うと苦しくて、涙がこぼれた。
「ヨシアキ、なかないでぇ・・・」
言いながら、タマはまた泣き始めた。
「ごめ・・・」
それでも止まらなくて、おれも泣き続けた。
「いいの、タマ、ぇくっ、タマごめんなさいするから、ごめんなさいするからもうなかないで?ごめんなさい、ヨシアキ、ごめんなさい。」
「もういいよ、ごめんっ!」
それだけやっと言うと、おれはタマをぎゅっと抱きしめた。
涙がひいても、俺はまだ少し不安でタマを放すことができなかった。
「あんな子、好きじゃないからね。
タマ、信じてね?」
声が元に戻っている事を確認しながら、おれはつぶやいた。
「ほんと?」
「うん。あれはしょーちゃんがくれただけ。
嘘ついてごめんね、急にあんなことされて
ぼくもびっくりしちゃったんだ。」
「うん・・・ゆるしてあげる。」
おれの腕のなかで涙をぬぐいながらタマがそう言ってくれて、おれはやっと不安感から解放され、タマから手を放すことができた。
「でもね、タマとは、えっと、・・・変な事はできないっていうのは本当なんだよ?」
おそるおそる説明する。
「ヘンなこと?」
泣きやんだはいいが、タマは説明しづらいことを無邪気に訊き返してきた。
「えー・・・と、だから、あの、さっきタマがしようとした事!」
「えー?」
不満げな声が返ってくる。
見た目も中身も子供のくせに、する事はしたかったようだ。
でもこれはきちんと諦めてもらわないと、また襲われてはたまらない。
「だってタマはぼくの」
言いかけて、止まる。