◆
斯波家の座敷には、ヨシアキ、ショウリ、キリコ、そしてタマとばあちゃんが座っていた。
水晶玉が傷ついたせいで復活してしまった、キツネ少女のタマ。
ばあちゃんがもう一度封じ込めようとした彼女を、哀れに思ったヨシアキが妹にすると言って何とか助けたのだった。
もしキツネ少女、タマがヨシアキに危害を加えれば斯波家が黙っていないとの条件付きで。
しかし、一方で家族が増えるというのに、ヨシアキの家には何の話も通っていなかった。
ヨシアキのとっさの思いつきだからだ。
まだ幼い彼にはわからないが、子供が一人増えるというのはそれなりにオオゴトだ。
それを、他人の家の事とはいえばあちゃんがアッサリ認めたのにはワケがあった。
何せ、タマは人間ではない。
ばあちゃんはタマに問いかけた。
「タマちゃんや、姿を消すことはできるかい?」
タマは助かったとわかってから、すっかりゴキゲンでヨシアキにぴったりくっついていた。
「うん、できるよー。」
タマの姿が急に見えなくなった。
ヨシアキは
「え、え?」
と驚きながらあたりを見回す。
ショウリとキリコも同じだ。
「すげぇ・・・あんな、フツーにそこに居たのに。」
どこにもタマの姿を見つけられず、ショウリが目を丸くした。
ばあちゃんは見えないタマに、さっきと同じように話しかけた。
「ヨシアキちゃんにだけお話できるかい?
・・・そう、してごらん。」
すぐに、ヨシアキはびくんとカラダを震わせ、また辺りを見回した。
ばあちゃんは、それを見て面白そうに笑う。
「ふふふ・・・どこから聞こえるかわからないだろ?
きっとね、タマちゃんは今このお部屋全体に広がってるんだよ。」
これに、ヨシアキより先にショウリが反応した。
「空気みたく?すげえなタマ、空気んなれんのか。」
一方ヨシアキは不安げに、どこにいるかわからないタマに話しかける。
「タマ?元に戻れるの?大丈夫?」
とたんに、ヨシアキの隣にタマが現れた。
「うん、だいじょーぶっ。」
腕にからみついてニコニコしている。
ホッとするヨシアキ。
ばあちゃんはにこやかに二人を見守りながら、タマにいいきかせる。
「タマちゃんや、ヨシアキちゃんと一緒にいたかったら、ヨシアキちゃんのおうちの人に見つかっちゃいけないよ。
他の人のいるところでは、さっきみたいに消えておくんだ。」
タマは大きな目をみはって、首をかしげた。
「なんで?タマ、ヨシアキのイモートになったんだよ?」
ばあちゃんは少し笑った。
「妹ってのはね、ふつう急に沸いて出るもんじゃないんだよ。
みんなすぐおかしいって気付いて、タマちゃんを退治しようとするだろうね。
そんなのイヤだろ?」
ヨシアキはそれを聞くと、あぁ、と小さく納得した声を出した。
タマは激しい反応を見せる。
「ヤダ!」
怯え、ヨシアキの腕をつかんだ手にチカラをこめる。
ヨシアキはそんなタマを無意識に抱き寄せていた。
ショウリもキリコも、ばあちゃんの話を聞きながら黙って
二人の様子を見ていた。
ばあちゃんは言う。
「じゃ、言うとおりにしようねえ。
それから、そのお耳もシッポも、人前に出なきゃいけない時は隠しておくんだよ。」
「あっ!」
タマは今気づいたという声をあげると、両手で耳をさわり、シッポをぴんと立てた。
「んー。」
目をつむって小さくうなると、耳とシッポは見えなくなった。
かわりに、耳のあったあたりには小さなリボンで一部だけ結わえられた髪の房があらわれ、シッポが消えると着物の帯の結び目は心なしか大きくなった。
耳とシッポが化けたように。
タマとしては上手く人間に化けているつもりでも、気をつけないと正体丸出しになってしまうらしい。
「これでニンゲン?ヨシアキとあそべる?」
不安そうにタマはばあちゃんにたずねた。
「そうだねえ、どっから見ても可愛い女の子だ。」
ばあちゃんが答えてやると、タマは嬉しそうに笑った。
「じゃ、いこっ。あそぼ。」
すぐ立ち上がり、ヨシアキを引っ張る。
「わわっ、わかったから引っ張らないでよー。」
そのヨシアキに、ばあちゃんが声をかける。
「ああ、それとヨシアキちゃん、このコのゴハンは心配しなくていいよ。」
「え?」
「さっきみたいに、食べることはできるし、おなかもすかせる。
でもね、本当は食べなくて平気なんだよ。
“キツネ”とは言ってもあたしたちとは全然違う生き物だからねえ。
ただ、可哀想だって言うんなら、時々オヤツでも分けておやり。」
ヨシアキがタマを見る。
それでいいのだろうかと。
タマは少し悲しそうな顔をして、それでも
「うん、ガマンする。」
と、言った。
ひとりぼっちにならないために、ヨシアキと一緒にいるために。
「じゃ、毎日おやつ半分コしよう!ね、タマ。」
すぐさま、ヨシアキはそう言っていた。
たちまちタマに笑顔が戻る。
「うん!ヨシアキだいすきー!」
思いっきりヨシアキに抱きつく。
ばあちゃんはそれを見て
「うーん、よくなついてるねえ。
こりゃ心配いらないかもねえ。」
と、独り言のように言った。