ビートルズが1967年に発表したアルバム。
 花畑のような場所で、宮廷楽団のような衣装を着た4人が、古今東西の有名人の蝋人形に囲まれているジャケットはあまりに有名。
 
 『Sgt.Pepper~』はビートルズ初のトータルアルバム、と言われている。
 通常、アルバムは新曲がある程度溜まった段階で制作するか、あるいはレコード会社と交わした「○○年は×月と△月にアルバムを出す」といった契約によって機械的にリリースする。それに対し、トータルアルバムとは予めアルバムのコンセプトを決め、そのコンセプトに沿った曲を作り、然るべき順番に曲を配置するのが、トータルアルバムだ。
 現在ではコンセプト主導のアルバムなど珍しくもないが、当時はこの方法論は画期的だったらしい。しかも、当時は今と違ってアルバムのリリース期間は極めて短いため、コンセプトなどを設定する余裕はなく、その都度できあがった新曲を随時レコーディングしてアルバムにするのが通例だった。

 このアルバムは、4人がサージェント・ペッパーズ・ロンリーハーツクラブバンド、という架空のバンドに扮している。このバンドによる一夜のショー、というのがこのアルバムのコンセプトだ。
 1曲目に自己紹介曲があり(ポールが「May I introduce to you“Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band”」と歌っている)、その後10曲の“ショー”を経て、アンコールがあり、最後に、「A Day In The Life」という壮大な曲で締め括られる。
 トータルアルバムであるとかコンセプトであるとか、そういった予備知識なく聴いてみても、確かにこの『Sgt.Pepper~』には、前作『REVOLVER』までのアルバムにはなかった「ストーリー性」を感じ取れる。もちろん、ストーリーと言っても意味や情報があるわけではないが、全13曲、計40分全てをまとめて1曲であるかのような感覚が味わえる。これが『Sgt.Pepper~』を聴くうえでの醍醐味だ。

 なんといっても、曲順が素晴らしい。
 冒頭からのめり込んでしまう。アルバムのタイトル曲のラストから2曲目の『With The Little Help From My Friends』のイントロは切れ目なくつながっている。ポールのシャウトからコーラスを経て、「次はどうなるんだ?」と期待させておいて、絶妙すぎるほど絶妙なリンゴのボーカルの入り。
 続く『Lucy In The Sky With Diamonds』でカタルシスを感じた後は、『Getting Better』『Fixing A Hole』と少しコミカルになって肩の力が抜け、『She’s Leaving Home』で今度はグッと切ない気持ちにさせられる・・・。このような緩急がラストに至るまで計算され、制作されているのだ。
 そして、聴くたびにこの物語は表情を変える。今夜聴く『Sgt.Pepper~』と、明日の朝聴く『Sgt.Pepper~』とでは手触りが違うのだ。飽きるどころか、聴くごとに味わいが変化し深くなるのが、ビートルズの凄さでありこのアルバムが名盤と呼ばれる所以だ。
 無人島に行くならぜひとも携えたい1枚である。