2008年にデビューしたイギリスの女性歌手、ダフィーのデビューアルバム。
 84年生まれなので24歳ということになるが、ジャケットの写真を見るとさらに幼く見える。ブロンドの小さな女の子だ。
 風貌から、軽快なポップミュージックを想像していたが、実際のサウンドはまるで違う。生易しくない。

 アルバム1曲目、タイトル曲でもある「ROCKFERRY」はオルガンの重厚な低音から入る。ベースが加わってさらに重みが増したところへボーカルが入る。
 イントロのただならぬ雰囲気で、すでに当初のイメージを覆されたわけだが、さらに驚きなのは彼女の声だ。容姿からは想像しなかった成熟したハスキーボイスで、ソウルフルなのだ。「ROCKFERRY」においては、前半は低く歌う。曲の後半の高音部分においても、彼女の声は伸びやかさを見せる。
 
 収録された10曲のなかにはソウルテイストな曲、ヒップホップ混じりの曲と、全体に黒っぽいサウンドではあるがさまざまなバリエーションがある。
 どの曲も切ない。明るく振舞っていても、陰が滲んでいる。重く響くベースやドラム、ピアノがずっしりと胸にこたえる。
 だが彼女の歌声は、その重いサウンドに背を向けている。ベースが切なく唸るほど、ピアノやギターが暗い陰を紡ごうとするほど、彼女の歌声は上空の雲を掴もうとするかのように、熱く熱く伸びていく。サウンドに寄り添わない彼女の歌い方は、荒れ狂う嵐に翻弄されながら飛び続ける渡り鳥のようだ。彼女の歌は胸に沁みる。

 ダフィーはイギリス南部ウェールズのネフィンという小さな村で生まれ育った。本人曰く「レコードショップもショッピングセンターもスターバックスもない、現代のカルチャーから隔絶されたド田舎」だそうだ。
 ド田舎にあって、唯一の音楽との接点はラジオだった。イギリスのラジオ番組の多くは、ポップス、ロック、R&Bなどとジャンルによる区別なく音楽をかける。50年代の曲が流れた後に、いきなり現代の米ポップスがかかる。そのような雑多な曲構成、ジャンルによる分け隔てのない音楽環境が彼女の才能を育てた大きな理由かもしれない。
 また、イギリスという国が持つ、豊穣な音楽的土壌も彼女が世に出る背景となっていると思う。仮に彼女がアメリカに生まれていたのなら、果たしてレコードをリリースすることができただろうか。
 アーティストとしてのダフィーという存在は、結果としてポップカルチャーに与しているものの、彼女の書く曲はどこか退廃的で、アイドルというよりもアーティスティックだ。洗練されてはいるが、非常にプリミティブである。イギリスの音楽に対する懐の深さが、ダフィーというアーティストを生み出した遠因であると思う。

 2枚目、3枚目のアルバムで、彼女の歌声とサウンドの関係がどのように変化をしていくのか楽しみだ。今後に期待を持たせる、瑞々しいデビューアルバムだ。