フリーランス&副業者のギャラと権利を護る法

フリーランス&副業者のギャラと権利を護る法

フリーランス、副業、起業、
非正規、派遣等で働く人の困り事や
疑問の解決と対応策に係る法的&
社会環境的情報のブログ

政府系&民間・日系&外資の大企業も50名以下の規模も含む様々な業界の企業約15社で実際に法務業務に携わったサバイバルとコンサルティング経験からの、フリーランス・副業者・起業者・非正規社員・派遣社員等として働く方々へ知らないと命取りとなる、そして、知っておくと有利になる法的・社会的情報発信と緊急提言!!
Amebaでブログを始めよう!

 

この年末に「この本いいよ!」と分厚い本を紹介されました。

 

法務業務に長らく携わってきた者にとって必須のスキルに焦点が当てられている内容であり、しかも日本においてはあまり類書がない分野の著作であったため、年末年始を利用して読んでみました。

 

 

 

 

 

「全米ベストセラーにして25年読み継がれる伝説の名著、ついに邦訳!」と帯にある通り、この本には約450頁にわたり交渉におけるテクニックが披露されています。何気なく経験に基づく属人的感覚にテクニック名がつけられて章として分類されている事が、何よりも新鮮でした。その分類視点や切り口に、なるほどなぁと改めて気付きと学びを得ました。個人的な交渉から組織や国家といった様々なクライアント種類にまで言及し、理屈だけではなく実際に例を用いて具体的に説明されているため、お勉強ではなく実践知識という情報収集をサクサクと進められる著作です。

 

ですが、安定的に”ボリュームのある”案件を得る為にある程度の規模の企業をクライアントとしたい殊にフリーランスや個人事業主等の方々にとって必須の契約書中心の交渉についてほとんど言及の無い点と、ビジネスと法律の不可分性があまり出てこない点が難点でしょうか。ご承知の通りに、組織度が上がれば上がるほど契約書にビジネス取引の全てが集約されるため、法務関連業務専務者以外の方々の法律知識が交渉の成否を左右することになるからです。したがって、意識の高い企業ではしばらく前から法務検定3級の取得を営業を中心とした社員に奨励しており、その勉強費用の補助と合格した場合の昇給や+αの資格給与とする動きがかなり出てきております。(ちなみに、企業の法務担当先任者としてやっていけるレベルとされているのが法務検定2級となります)

 

よって、契約書という交渉時短ツールをどれ位ひな型として整備しているのかがビジネス交渉にはとても重要になってきます。殊に誰もがクライアントにと望むレベルの企業はコンプライアンスの”洗練度”もかなりありますので、契約書の”内容がわかる”事が現代においては益々重要になってきており、経営者に必要な法律知識と位置付けられている法務検定1級の内容を自らの物としていくことが、殊に上場やM&Aといったレベルのビジネスを行っている若しくは想定している経営者・起業家の方々にとっては必須の事項となって行くでしょう。この観点から、「契約書を営業のどの段階から用いるか=いつ契約書を相手に提示するか=法律交渉をいつから始めるのか」という要素が、交渉の成否だけではなく、自らのビジネス生命を左右する決定打となっていきます。

 

ある程度の規模以上の企業が個人を取引相手にせずに避けるのは、この点が企業規模が小さければ小さいほど、個人経営に近ければ近い程整備されておらず「危ない相手」であるため、というのが大きな理由であることは認識しておいた方がよろしいかと存じます。

 

従って、どんな形態・規模であれビジネスを行っている若しくはこれからビジネスを始めようとしていらっしゃる方々は、「コンプライアンスはビジネス成長の足枷になるから後回し=バレなければ大丈夫!」という発想をきっぱり捨てて、ビジネス開始時点から法律マターの事項の整備・強化を行っていく事が益々重要になって行くでしょう。この点をおろそかにしたために、特に上場に至る過程で苦労もしくは自滅した企業、結構実際にこれまで観て来ましたので、殊に起業ロードマップで上場を視野に入れている方々は十分にご注意なさった方がと存じます。

 

加えて、ビジネスが「相手の問題を解決すること」である点からも法律の知識が交渉を左右する事がわかります。どのような法律が現在の自分達の交渉案件という具体例においてどう問題となっているのかという事を説明できる力量が、この契約書必須となった現代のビジネス交渉を有利に運べる最大の武器になるのです。本書448頁に出てくる「ニーズ・ネゴシエーション」のニーズの最たるものが法律知識であり、そのニーズを満たす法律知識がが405頁から書かれている「エキスパート・パワー」そのものであるからです。私自身、交渉相手にこの点を説明することで、大きな案件や想定以上の実りとなる案件を得たことが幾度となくございます。

 

交渉は「ビジネス」そのものです。「交渉」という別のくくりにすることなく、「ビジネスとは相手の問題を解決する事」を真摯に行っていけば、ビジネスの根幹をなす信頼を得られると同時に、その案件は意図せずとも自らも有利な条件でクロージングできる事が大半というのが、個人的な交渉における所感です。

 

また通常の場合、よほどの有利な条件を元から持っている場合以外は受注側に、しかも個人経営に近しい形態であればあるほど交渉の余地はない事が大半ですので、「相手の要望=相手の契約書記載内容」を自身のビジネス方針に沿ってどこまでのめるのかを決めていくのが「交渉」という悲しい現実もございます。「交渉」とは、そもそも”対等な力を持つ者同士”の間でしか行えないからです。

 

ですが、”勝ち負け”を超越した「相手の問題を解決する」ビジネスの為に何をどう提供するかを念頭にどう振舞うのかを考える際の指針として、本書の数々のテクニックや心情に関する指摘は大いに参考になりますし実践的でとても役に立つと存じますので、特に立場的に弱いフリーランスや個人事業主等の方々にはご一読をお薦めします。