葵の従軍記録 | 三濱レイのブログ

三濱レイのブログ

主にシルバーレインの事を三濱とそのキャラで語るブログ。だったが、今ではほとんどプレイング置き場となっている

始めに

この記事は、私が調子に乗ってPixivに投稿した物を、こっちに持ってきただけの物です。

重いものや、クロスオーバー、公式作品から設定が外れている等が駄目な人は、ブラウザバックを推奨致します。


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 うっそうと茂る森林の中、私は:朱に塗れて倒れる姉を介抱していた。
「あお…い…うちはも…う…ダメ…や……お前……だけでも……戻り……ぃや」
力なく紡ぐ姉の茜。撃たれて肩口から貫通した弾が致命傷となったのか、腕の中で生気がどんどん失われていくのがいやでも解ってしまう。
「だめ!諦めないで!ポイントまですぐだから!」
私は励ましながら姉を装備諸共背負って、救護班にも連絡を入れてできるだけ急いでそこに向かう。

 しばらく走り、ようやくポイントが見え始めたところで、弱々しい声が背中からかけられる。
「葵……もう……ダメやわ……大変……やったけど……いま……まで……ほん……ま……たの……し……かった……で……」
そして姉の手からこぼれ落ちる私たちの愛銃であるロングアンチマテリアルライフル。私はそれが信じられずに、ポイントに向かうことも忘れ、動かなくなった姉を揺さぶりながら私はただただ大泣きしていた。


 その後の数日間は何をしたのかも覚えていないくらい、がむしゃらに動き回っていた。
所属している当所をフルに活用し、いろいろな世界で蘇生の手段に頼ったけども……貯金全部回しても手に届かなくて深く深く、失望の闇に飲まれていた。
遺体保管期限が過ぎ、元の世界に帰った私は亡くなった姉の葬式を両親と開き、無事に天国へ迎えるように、何時間も涙を流しながらずっとお祈りをしていました。


 忌引きとしてもらった7日間は姉の遺品整理や思い出に明け暮れて……最期に敵に気付かなくて撃たれるところも何回も何回も思い出させられて、いっそのこと姉を追おうとして包丁まで手に取ったけど、それもできずに、ずっと無気力な暮らしをおくっていました。

 当所に復帰したときはすごく周りから心配されて『大丈夫』と気高に振る舞っていたけどもやっぱりボロが出ているみたいで、受付でもお得意様に気付かれてしまって……そこでようやく私は想像以上に自分の心に傷を負っていることに気がついた。


 やっと本当の意味で立ち直ってこれた頃、兵管理のところから呼び出しを受けました。
ここでは全員が受付と兵務が義務づけられているのでいつ来るかと心配していたけど、それも図ってくれていたみたいです。


 私は前まで観測として、お姉ちゃんの狙撃をサポート、後は近距離の敵を追い払う役目だったので、別の狙撃兵と組まされるのかとずっと思っていたけど……
実際は「機甲団」…主に地上・宇宙対応の兵器に乗って戦う所に回されました。
恥ずかしいことに私…うぅん、姉妹はここに来てすぐの兵器適性審査をうけて、ことごとく最低ランクの『適正なし』だったから、歩兵…狙撃兵として動くことになっていたのです。
そんな私の心配をよそに、続けてくる言葉。そして、任務。



内容はこんな感じ。
主任務
・新型機のテストドライブをすること。
搭乗機
 └琴葉葵専用機:AAO-F2(機体名未登録)

補足
 僚機
・航空科・事務:結月ゆかり(YF-25-Y/c・プロフェシー結月仕様:ウォーバード級)
 └役割:偵察兼護衛
・工兵科・整備主任:弦巻マキ (AHG-04G-T/c・ヘヴィガード弦巻仕様:ライトニング級)
 └役割:現地修理補給



私は疑問をすぐにいくつか浮かび、すぐに質問に出す。
まず、何故適正のない素人が重要な機体のテストドライブに乗せられるのか。
 これはどうも『機体がプロのテストドライバー搭乗を拒否』しているみたいで、どうしても調整ができないと言うことで、整備や開発も頭を悩ましている中での苦肉の策だったみたいです。
次に僚機が居ること。
 こっちは私と仲の良いこの二人がついて、私のリラックスにつなげてようとする配慮と、最近テスト場付近で怪しい動きがあるらしく、事前に安全調査した上で、かつ念のためと言うことらしい。
まぁ、もし怪しいところがあっても、兵務が出来なければここには居られないので、二つ返事で受諾し、格納庫に向かっていった。


 元々歩兵の私は格納庫に来ることがなく、到着するやいなや、整備の人からものすごく珍しい目でじろじろと見られ続け、すぐにでも逃げたくなるけども、ぐっとこらえてそのAAO-F2という機体の前へ案内された。
近くにあるカバリエ級の機体とも見比べても同じくらいの背格好……うぅん、少し華奢な印象を受ける機体だった。目はバイザー型でありながら顔はほっそり整っていて、なぜかわからないけど親近感を感じてしまう。
色については、私の名前の通り、少し灰色が混ざった紫…葵色で主に塗装されていて、そもまた印象をよく感じさせてくれていた。でも、印象の良さと運転はまた別。軽く操作の説明を受けて後は搭乗するだけ……なのに、自分の適性と新型機という組み合わせに足が震えてしまって、一歩も動けなくなる。
あまりにも動けないので、案内してくれた整備員が横で私を励ましてくれているけど、やっぱり動けない。
 そんなとき、近くで何かが動く音がして、周りに居た整備員達が騒がしくなる。
AAO-F2が……勝手にコクピットを開いて私に手をさしのべていたのです。その光景に整備員達は一斉に騒ぎ、調査をしようと動き出していたが、機体のその行動に怖い物を感じながら恐る恐る手を伸ばして、指先をつかんでみる。

 ……温かい……確かに触った物理的な温度は鋼鉄の冷たさですごくひんやりしているんだけど……何故だろう、この手に触っていると、心がすごい温かく感じられる。
私は意を決し、その手に乗ると、それはまるで壊れ物を扱われているかのように大事に大事に持ち上げられ、コクピットに入りやすい場所まで持ち上げてくれた。
 逆にここまで大事にしてくれる事に対して恐怖を覚えながらも、シートに着席し、ハッチを閉めると、自動的に計器が作動し始める。通信から入ってきた言葉に従って、いろいろと操作をしてみるけど…これもまた、角度、力……文字通り指一本思い通りに動かせるのだ。シミュレーターや適性テストのように反対に動いたり、握りすぎて壊れたりとかしていたのが不思議なくらいに。
一通り済ませた後、私たち3機はそれぞれのランチから目的のフィールドへ飛んで行った。


 ついた場所は歩兵用のそれとは比べものにならない広さの静かな草原で、所々に林や岩といった障害物。遠くには山も見えていて、傾斜には訓練用のターゲットが設置されていて、ここは射撃向けの所だと解るけど……この機体が持っているのは、人の長さと比較してブロードソードクラスの実剣のみ。乗る前に固定バルカンがあるかどうかも見たけども、それもなさそうで……この場所にいるのもおかしそうな気がする。
そんな私の気も知らず、頭の上をファイター形態で飛んで行くラビット3…結月さんの機体。
「基本動作もそうだけど、まずは基本となる望遠やロックオンの練習からね。仮ターゲットとして結月さんを向かわせているから」
テック1…弦巻さんから通信が入り、結月さんが移動するのを眺めていると……カメラの隅…林の中で何か光った気がした。
望遠の方法も実は解らないので、気になったところに向けて何も操作せずに凝視しているとそこが別ウィンドウ、最大望遠で表示され、そこに映っていた物は……

「ラビット3!ラビット3!右舷下林の中にゲリラ歩兵、対空スティンガー3!」
「っ!?」
私は反射的に叫び、ロックオン直前に知れたためか、彼女はバレルロールとフレアでそれらを躱し、最速のUターンでこちらに進路を変更する。
「こちらテック1!ラビット3訓練弾全て投棄!ポイントRで実弾補給!ジェミニは出力を訓練状態から実戦レベルに上げて!」
「「了解!」」
 弦巻さんの通信で結月さんは装填している訓練用ミサイルやペイント弾を空中から地上へ、まるで爆撃しているかのように投下しながら、急ぎ飛んでいる。
私は出力を上げつつ、弦巻さんとは別の林に身を隠し、周囲MAPを展開して先の攻撃してきたゲリラを「観測」していた。
「こちらジェミニ、先の敵は車で移動中。林の中で移動経路が見えない。追撃してくる事を想定したルートを送ります」
ディスプレイのMAP指でなぞってラインを引き、それを二人に送る。また、さっきはこうは言ったけど、「全く見えていない」わけではなく、かすかな隙間から僅かだけど、ちらちらと一瞬が連続して見えている。あと、自分のモニタに対して違和感も感じている。
…それは、何故射撃武器を持っていないのに、ロックオンのインジケーターが出ているのか。また、何故あと少しでロックできるのに、されないのか。
しかし、どうにもできないものはできないので、そのことを考えるのはやめた。

 やはり車と航空機では圧倒的に航空機の方が速く、みるみるうちに距離を離して、テスト開始したポイントの「すぐ横の林」…ポイントRにたどり着いた。もちろんそこにはテック1が補給弾薬箱を持って待機している手はずだ。
ラビット3はバトロイド形態へと変形し、森の中へと身を隠す。
「ラビット3確認。補給開始。すぐ終わらせるよ」
「お願いします。リペアインジェクターの接続も確認しました」
通信のやりとりを聞きながら位置的に私の所にどんどん迫ってくる敵の車。
そして、私は…最も近くなった時を狙って、唯一の獲物である剣でその車を飛び出しながら薙いだが…ちらっと見えた中身はすでにもぬけの殻。切断された車は木にぶつかり、爆発炎上。私もすぐに身を隠すべく翻した。

 すぐにそれを報告し、周辺を警戒するがお互いの木が邪魔で歩兵の姿が全く見えない。
でも、見えないからと言って、出てくるのをひたすら待つだけでは意味が無い。
そこで、地図と行動履歴を呼び出して相手に攻撃範囲と潜伏場所の予想を数カ所立てて、注意を促す。
それとほぼ同時に補給完了の通達を受け、空に舞い戻る結月さん。超低空から潜伏予想範囲から抜けて上昇していく。私は一度弦巻さんと合流し、身を潜めようとするが…そこでまるで滝が流れ落ちるような音を聞き、その方向を見ると、数十条の白煙が空に向かって噴き上がっていた。
「「「カチューシャっ!」」」
三人の声が同時に発せられる。
カチューシャとはトラックに大型のロケットランチャーやミサイルランチャーを積んだけの簡易的な兵器のこと。数からして数台居ることはすぐにでも解る。フレアに続き、ガウォークやバトロイドにめまぐるしく変形しながらガンポッドでミサイルを迎撃しつつも対地ミサイルで反撃を行っていく。その中で一台のカチューシャが無防備に近づいてきて…私の目の前を通り過ぎようとしていたので、私は側面からそれを叩き切って破壊する……が……
「危ない!」
弦巻が注意の声と共に、カチューシャが向かっている方向へと発砲した。
見るとそこにはロケットランチャーを構えた歩兵が拳大以上の口径弾を受け、はじけ飛んでいたが、その着弾直前に放たれたロケット弾が私に向かってくる。
感覚が加速し、見える光景がスローモーションになる。
ライフルを構え、飛んでくる弾体を狙おうとするテック1。
ようやくミサイルを全て撃墜し、私の護衛に入ろうとするラビット3。
剣を戻して防御態勢に入ろうとする私。
しかし、いずれも間に合わないと直感で感じる。
 ─これで…お姉ちゃんと一緒の場所へ……─
涙を一筋流し、安らかな顔で目を閉じて……ミサイルが炸裂した。


「「葵ちゃーーーんっ!!!」」
二人は叫び、焦る。装甲はそれなりのはずだが、今のはコクピット直撃コースに近い。
機体は無事でもパイロットが死亡する確率が非常に高いだろう。
結月は涙をこらえ、コース変更して敵の殲滅へ。弦巻は鈍足ながらも救助のために爆心地へと急ぐ。

「葵……葵……」
お姉ちゃんの声が聞こえる。
「お姉ちゃん……?」
私は姉と再会出来た感じで、幸せにあふれる。
「お姉ちゃんの所に…私…来ちゃったんだね…」
「何アホ抜かしとんねんや!!さっさと起きんかいや!!」
予想外の叱責で小さく声を上げて目を開ける。言われてみれば確かに直撃の振動はやってきていない。機体のダメージ状況も0…つまり被弾なし。しかし、モニタ一面は煙で埋まっている。
「いったい何が……」
「何もへったくれもあらへんわ。ったく、終わってから言おう思てたのに、台無しやわ」
呆然とする中、再び聞こえてくる、姉…茜の呆れた声。
訳もわからず、ただただ混乱していると、煙が晴れ……
「!?ジェミニ!そちらの機体に噂の暴走兆候が出ているよ!気をつけて!」
今度は弦巻さんの声で、更に狼狽する。モニターや計器類を見ても一切変化は見て取れない。
「あー、もう、葵、落ち着け。ええか、葵は絶対うちが守てやる。だからいつも通り『見てくれ』な」
しびれを切らした姉の声は私を宥めるように、いつもの信頼の言葉を投げかけられて私は悟った。
「……こちらジェミニ『2』!…機体損傷、異常はありません。復帰します!」
力強く応答を返し、剣を構えると、いつの間にか茜色に変色した機体の周りに小さく発光する小型の機械が16基程展開する。
「えっ、あれは……オーバーロード級!?カバリエ級だと説明を受けていたのに!いつ仕様が変わった!?」
それに驚く弦巻。私はそれを意に介さず、MAPを開くと共に全方位スキャンをかけ、索敵をかける。
索敵内の反応は味方のみ。敵は見当たらず、この外にいるのだろう。
私は結月さんの機体、後ろに付くよう3基飛ばして護衛させ、本来の観測の如く、身を隠しつつ、カチューシャが居た方向へ遠距離の索敵が出来る指向性のスキャンをかける。
今度の反応は……12。
「こちらジェミニ2。ラビット2、そこから敵はいくつ見えますか?」
「ラビット3、目視捕捉は4。レーダー上は12です」
ラビット3の動きは目視できる敵を直線的に攻撃できるように旋回をしていると予想が出来る。
「ラビット3、ミサイル迎撃と見えない敵は私達がやります」
「了解、お願いします」
スキャン状態から請け負った敵だけをロックオンしていき…ビットを向かわせる。
ラビット3は念のためフレアを放出し、その周りでビットによってミサイルが撃墜され、花火となった爆煙を突き抜け、続いてのガンポッド掃射とミサイルで4両のカチューシャが爆発四散。死角から回り込んだビットは車両の後ろから攻撃を加え、林の中から爆煙が続々と吹き上がる。
「エネミークリア!」
「エネミークリア!」
レーダーやスキャン上から敵が消失したのを確認し、私と結月さんが報告する。
ほんの僅かだけ結月さんは補給を受けた後に哨戒飛行を行い、敵残存の再確認を行う。


「ふぅ……よかったぁ」
初めての機体に乗り込んでの戦闘が一段落して気が抜けてしまう。本当はまだ抜いたらいけないのだけど、このままでは耐えられないと感じてしまい、一人先に一度リラックスさせてもらった。
「……お姉ちゃん。ありがとう」
すっとコンソールを愛おしく、優しく一撫でする。
「全くやわ。あと扱われる身になってよー解ったけど、操作荒すぎるわ!もっとデリケートに扱ってぇや!」
「えぇっ!?」
てっきりあのとき限りだけと思った姉の声が急に聞こえてきたので声まで上げて驚いてしまった。そして、さっきの言葉が本当なら……え?
「お姉ちゃん…もしかして……」
「せやで。思っとる通りや。やから先に言うとく。うちの事は一切他の奴らには言うな。それこそうちが処分されるからな。後、気ぃ利かせてくれたせいか、通信にはうちの声は通らんから気をつけや」
あぁ、お姉ちゃんが真剣に重要なことを言ってくれているのに、私は口をぱくぱくしながら驚いているだけで……頭に入らないよ……でも、こんな形でもまた一緒に居られるのはものすごく嬉しい。
「葵ぃー……葵ぃー……」
「え、あ、な、なにっお姉ちゃん」
ようやく我に戻ってため息をつかれる。少しばかりの忠告を受けた後に丁度良くラビット3が戻り、テストは中断。帰還することになった。
 なお、葵の機体は戦闘が終わったくらいにまた、機体塗装が葵色に戻っていたと聞いた。

 帰還した後、自室とコクピットを余分に1往復してあるものを回収してそれを自室の隅で広げ、それのそばにあった茜色の新型インカムを取り付ける。

「帰ってきたよ」
その声をキーにして、部屋の中にお姉ちゃんの実体……死なれる前そのままのすが……た?が現れた。
「あ、あの、お姉ちゃん、ちっちゃくなった??」
その言葉にかちんときたのか、身長約110cmの姉は青筋を浮かべ、拳を振り上げ迫ってくる。
※捕捉:琴葉姉妹は公式で身長158cmと言われています。
思わず頭を抱えて守ろうとするけど、いつまでたっても衝撃は来ず、ちらりと姉の姿を見ても、拳は振り下ろした後。今度は肩を掴まれ……掴まれている感覚が無い?
「誰のせいやと思ってんねんや!葵がR-研やファイルーン系技術者に頼むからやろ!!おかげでなぁ、適正高めるためとか言うて幼体固定とかされた上にこうなってなぁ!!」
 お姉ちゃんの言葉を聞いて苦虫をかみつぶしたような顔をしてしまう。R-研といえば、機体戦闘能力上昇のためなら人間を機械パーツの一つとして扱うこともすら辞さない、超MAD系で、当所にも所属はしているけどかなりの制限を受けた上で研究しているような人だったはず…後ファイルーンと言えば人間を戦闘機械にするような技術を持つ集団。こちらもR-研と同じように制限を受けている。
つまり私は無我夢中で、知らず知らずに非人道系の人たちに姉の蘇生をお願いしていたことになる。
「でも……よかった……よかった……また葵とこうやって会えるだけでも…うちはすごぉうれしぃんや……」
そのまま私の胸に顔を埋めて泣きじゃくる姉。私だって…私だって…
「私も……嬉しいよ…」
感覚は無くても見えているホログラムと勘で姉を包み込むように抱きしめ、私も……姉妹そろって、泣きじゃくり始めた。

 一通り泣いた後、私は姉の立場や扱い方、スペックなどを一通り教えてもらい、今回のことを報告書として書き記し(もちろん茜の事は一切触れていない)、床についた。


 深夜、明かりのない琴葉姉妹の自室で葵の寝顔を見つめる茜。彼女は機体化されたせいか、眠る必要が無いようで、このような時間はとにかく暇のようだ。
「ほんま、ええ寝顔やなぁ。可愛えわ」
葵は今インカムを外しているので、茜のつぶやきは一切届かない。
「……こんな可愛い寝顔を守るために戦うと言ってもええかもな」
優しく葵の頬をホログラムの手で撫でると、彼女は「んっ」と声を上げつつ軽く身じろぎをする。
「でもな…うちはお前だけ守るとはもう言えんのや……そう……あいつらの分も生きなあかんねんや…」
そのつぶやきに答えるのは誰もおらず、一人、自分が居る格納庫の方へをしっかりとした決意の炎を灯して眺めていた。


 翌日、休憩室で昨日の3人が集まり、報告書を詰めていたときにふと弦巻さんが質問してくる。
「ねぇ琴葉さん。ミサイル攻撃を受けてから戦闘終了まで機体の色が変わっていたんだけど、何か心当たり無い?そのあたりの記述、全員の分を見ても詳しく書いていないからさ、パイロットとして何か気づいた事があれば書いてくれるだけでも、整備する側としてはすごく嬉しいんだけど」
 核心を突かれたような質問で内心どきっとしてしまう。インカムからもお姉ちゃんが『[[rb:躱せ躱せ > かわせかわせ]]』と警告してくる。もちろん本当のことなど言いたくないし、かといって有りもしないことを書くのもアレなので、適当に『機体が何かしらで活性化したのではないか?』程度に答え、何とかはぐらかせる。
「そうですね、後重要な物を一つお伺いしないといけませんね」
今度は結月さん。また姉の事を直接的に聞かれるようなことになるのではないかとひやひやする。
「貴方の機体、何という名前なのですか?」
「あ」
 全く考えていなかったことを聞かれてはっとした。確かに今のお姉ちゃんは型番として『AAO-F2』という型番を与えられているけど、ちゃんとした名前が決まっていなかったというのを忘れていた。むしろ、私個人としてはお姉ちゃんとして通っちゃうからそこまで頭が回らなかったのかもしれない。
二人には『直ぐに決められないから保留』という形で通し、近日中に決めると約束、記入して、3人のを見比べて矛盾やおかしいところがあればお互いに補足や修正を加えて仕上げ、提出。その後は今日の『受付業務』に戻って窓口で雑事をしながらお客さんを待ちつつ平行して名前を考える。
幸い当所は世界と世界の狭間……ここから呼ばれた人や、契約を交わした人しか来られないこともあって、来客は非常に少ないので、考え事ができる時間は非常に多いけど、むしろこのタイミングを逃すと、次はいつじっくり考えることができるか分からない。 
 でも……やっぱり思いつかない。二人を色にして混ぜてもなんだかしっくり来なくて、頭をかきむしりそうになる。
『葵、大分悩んどるようやな』
「そりゃそうよ。せっかくの新しいお姉ちゃんの名前を決めるんだから、隠した上でちゃんとしたのを付けたいじゃない!」
もちろん声を出して言うわけにはいかないので、手元のメモ帳で姉と筆談という形を取る。『そうカリカリすんなや。んなんやったら思いつくもんも思いつかんって』
私は一つ小さく頷いて、顧客からは見えない位置に隠していたコップの水を呷って一つ溜息。来客予定表を見てもここ数日はありそうに無い事を確認し、急な…新規の顧客が来ないことを祈りつつ、ぽーっと最近を振り返る。
 機体適正が一切無い自分が機体に乗り込み、実はそれが新しい体のお姉ちゃんで………そこで一つ閃いた。直ぐにそれに関係する言葉を探しては見つけ、紙に訳と共に書いて見せる。
『葵、うちの名前…本当にそれでええんか?』
その質問に私は笑顔で頷いた。


 業務が終わった後直ぐに格納庫へ向かい、弦巻さんを呼び出す。
整備士主任であるのと同時に機体登録も受け持ってくれているから。
「お、葵ちゃん。決まった?」
少しばかり時間を空けて、油塗れの作業着を着た彼女は片手で挨拶しながら現れた。
「はい、決まりました」
私は決意を決めた顔で、私の……姉の機体を見上げ、紹介した。
「この機体の名前は……Seize rose(シーズ・ローズ/囚われた薔薇)です」
「Seize rose……捕らえる薔薇…うん、オーバーロード級の特性をしっかり表しているね。良いと思うよ」
私は笑顔でお礼を言い、登録をお願いして再び姉を見上げる。
「改めて、よろしくお願いします」


─完─



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補足
この先はこの作中に出てきた一部の用語を簡単に補足していきます。
主にTRPG:メタリックガーディアンを持っていれば大抵分かるかと思いますが、持っていない人が多数と思いますので、この場所をお借りして記させていただきます。


・ロングアンチマテリアルライフル:対物ライフル。徹甲弾を使用することにより、数cmの鉄板すら貫通させる事ができる狙撃銃。これは更に長射程へ対応するためにより長銃身へ換装されている。


・ウォーバード級:可変可能な戦闘機。一番わかりやすく言えば、ゲーム&アニメのマクロスに出てくる「バルキリー」等がそれに該当する。
 ┣ファイター形態:航空機形態のこと。機動性に優れる反面、側面や背面に弱い。
 ┣ガウォーク形態:人型と航空機形態の中間形態。機動はやや劣るが、瞬時の側面や背
 ┃        後対応がしやすくなっている。
 ┗バトロイド形態:人型形態。機動性は最も悪いが小回りなどが効くので、洞窟や室内といった閉所などで良く扱われる。


・ライトニング級:全高5m程度の小型人型兵器。基本サイズとなっている「カバリエ級」よりも非常に小さいので、非常に命中・回避等機動に関する能力が相対的に高い。アニメ&ゲームで言うならば、ボトムズの「アーマードトルーパー」やコードギアスの「ナイトメアフレーム」、ボーダーブレイクの「ブラスト・ランナー」等が該当する。
余談だが、世界によれば中古ライトニング級は中古トラック程度の値段で購入できるとか。


・カバリエ級:全高18m級を基本とする、[[rb:所謂 > いわゆる]]リアル系ロボット。可もなく不可もなく、とにかく標準型。機動戦士ガンダムの「ガンダム」や同SEEDの「ストライクガンダム」等がそれに値すると言えばわかりやすいかと。


・オーバーロード級:外見的にはカバリエ級と変わらないが、こちらは脳波を使った遠隔武器を搭載している。機動戦士ガンダム系で言うならば「νガンダム」「サザビー」「ストライクフリーダム」「00クアンタ」等が該当する。


・R-研:原典はR-TYPEシリーズのTEAM R-TYPEそのもの。本編にもあったとおり、非人道の研究をしていた。が、その当時は世界観的に必要であった研究である。
有名なのは「サイバーコネクト」、「幼体固定」、「ANGEL PAC」、「[[rb:BJ > バイドジェリー]]機体」。原作でも半数は禁止技術となっている。
各詳細は尺の都合でカットさせていただく。


・ファイルーン:原典はアスタブリード。原作では全宇宙に進出をし続け、その現在地球へ侵攻を開始している勢力。詳細は勉強不足もあって省略させていただく。
この当所に所属している「研究者」はしっかりと条件打ち合わせなどをしているので、無差別に「研究」を行わないようにはなっている。


機体解説

・YF-25-Y/c プロフェシー:原典はマクロス30(それ以前に限定版でプラモデルが存在する)。マクロスFの早乙女アルト達が乗るVF-25“メサイア”の試作機となる位置づけにある。
(以下オリジナル)
これはそのコピーの結月ゆかり仕様。とにかく安定性に特化したカスタムをされており、多少バランスが崩れるようなセッティング・状況であっても問題なく稼働ができるようになっている。 
また、結月カスタムという意味を込めて、型番に-Y/cと付与されている
余談だが、そもそも未改造で彼女が乗ると即効で墜ち(以下略)


・AHG-04G-T/c ヘヴィガードⅣ型・G型混成機:原典はボーダーブレイク。装甲特化の重量機であり、機動性は望めないが、積載量と装甲に物を言わせた防衛戦闘を得意とする。
(以下オリジナル)
この弦巻マキ仕様は規格外装備としてPS装甲(稼働中物理攻撃をほぼ無効化する特殊装甲:原典は機動戦士ガンダムSEED)に加え、耐ビームコーティングという更に防御に輪を掛けたカスタムが施されているが、彼女自身戦闘が得意ではないために、装備は最低限の[[rb:銃 > ライフル]]一丁のみ。そのかわり、機体の積載能力を生かして僚機の換装装備や弾薬燃料を満載している。修理装備も用意しているため、文字通り移動拠点としての運用が主となっている。
余談ではあるが、PS装甲は余分にエネルギーを消費するために、燃料系は彼女が使うことが多いという噂が。
こちらも弦巻カスタムという意味で-T/cと型番が付与されている。


・AAO-F2 シーズ・ローズ:筆者オリジナル機体。といいつつ、アスタブリードより案を拝借させていただいた。
本来オーバーロード級はスターゲイザー(ガンダムで言うニュータイプ)でなければ扱えない。もちろん、葵はスターゲイザー「ではない」のだが、その必要な部分を姉の「茜」が担当することで無理矢理稼働することに成功させている。基本性能は「元狙撃観測」であった葵を考慮し、レーダー、索敵、望遠といった面を強化されている。
機体色変更の現象については、今現在では「茜が絡んでいる」とだけ申しておきましょう。
装備は現在遠隔ビット16基と実大剣1本のみ。
次作出すかもしれないし(約束はしない)。