ただ気の向くままに生きてきた。ほしいものを追ってきた。
幸せだと感じていた。
「ちわ。」
すれ違う彼は低い声であいさつをした。
「…、ちわ。」
私はなぜかこの彼がとても苦手だった。彼は必ず私にあいさつをしてくる。特別な理由などない。ただ彼は、私の彼氏の友達だからだ。私の彼氏の名前は一文字で「仁」という。仁は私のひとつ年下だった。私たちは付き合って1年と少しが経つ。友達の友達、というような感じで知り合って、自然な流れで付き合うことになった。放課後一緒に帰って、時々デートして、私が寂しいと言ったらすぐに電話がかかってきて、仁が会いたいと言ったら自転車に乗って会いに行く、それが私たちだった。仁との生活に何も不満はなかった。私は会いたい時に会って触れたい時に触れてきた。きっと仁も同じであるからここまで続いているのだろう。私たちはいつも幸せだと感じていた。きれいな桜が花をつける時、真夏の公園でアイスを食べる時、枯れた落ち葉をふんだりけったりする時、ひえた手と手を繋ぐ時。そして、仁が自分の友達を紹介してくれる時だって。
「私、なんでかハセガワアキラが苦手なのよね。」
ハセガワアキラの背中を振り返って見ながら私は言う。
「なんで?」
仁も一緒に振り返る。ハセガワアキラは背が高い。
「わからない。」
「おまえ、晃にちゃんとあいさつしてやれよー?」
「してるよー、ちわ、って。」
「目も見ないで?」
「なんでか見れないの。」
「なんで?」
「わからないよー。」
「晃いいやつだからさ、仲良くしてやってよ。」
「うん、仁の友達とは私も友達になりたい。」
「だろー?」
このあとハセガワアキラは彼女に会いに行くらしい。中学から付き合っていて、もう2年以上が経つという。違う高校の子なので実物は見たことがないが、仁がハセガワアキラからもらったプリクラで見たことはあった。小さな枠の中の彼女は、とても可愛い子だった。はっきり言って私がどんなに頑張っても、到達できないほどであった。茶髪にピアスの私と違って、彼女は黒髪セミロングで化粧も薄かった。私がどんなに目の周りを黒いラインでかこったって、きっと彼女はいつも薄いピンクのグロスを塗るだけで、私がどんなに髪を茶色く染めたって、きっと彼女はいつもあの黒い髪をさらさらと揺らすだけなのだろう。なんだか負けた気分になる。私がいくらやけになっても、彼女は何も動じないのだ。もちろん、彼女は私の存在を知らないのだから、そんなことはあたり前だ。それでも私はなぜか、彼女に、ハセガワアキラに、負けた気分になるのだ。しかも、相手が年下だからなおさらなのだ。