2026.07.31  NEW YORK

USD / JPY


160円台

157円台

アメリカが、円を買った。


日米が協調して円を買い支えるのは 1998年以来、28年ぶり
——それで、円は守られたのか。



こんにちは!rational-labです!



前回の記事で、私はこんな問いを置いたまま終わりました。「日本は本来の“相手を汲み取り、調和する”精神で立っているのか。それとも、資本主義という圧倒的な流れに飲み込まれ、いつのまにか“ただ従うだけ”になってはいないか」——と。



その答えらしきものが、思っていたよりずっと早く、しかも現実の為替市場という一番シビアな場所で出てきました。2026年7月31日、アメリカが、円を買ったのです。



今回はこの「28年ぶりの出来事」を、精神論ではなく数字と時系列で追いかけます。そのうえで、じゃあ結局ドル円はこの先どこへ行くのか、という一番知りたいところまで踏み込みます。



※本記事は2026年8月1日時点で確認できた報道・公表データに基づく情報提供を目的としたものです。数値は出典により幅があり、米国の介入規模など未公表・未確定の情報も含みます。



【何が起きたのか——48時間の出来事】



まず、事実だけを時系列で並べます。ここは解釈を挟まず、報じられたことだけです。









日時起きたこと
7月30日政府・日銀が円買い介入(2024年7月以来)。同じ日、ニューヨーク連銀が米大手銀にレートチェック(介入の前段階とされる値動きの照会)
7月31日米財務省が複数の銀行に「円買い介入の可能性」を通知(異例の予告)。同日午前の米閣議では、ベッセント財務長官の手元のメモに「するべきこと:50〜100億ドル分の日本円購入」と書かれていた(ロイター)
7月31日
NY市場
(日本時間
8月1日早朝)
政府・日銀が2日連続の円買い介入。これと歩調を合わせ、米財務省がNY連銀経由でゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーを通じ「ユーロ売り・円買い」を実施(英FT報道)。160円53銭 → 157円28銭。一時157円24銭と、5月中旬以来およそ2か月半ぶりの円高水準
8月1日高値160.876円/安値157.484円/終値157.626円(前日比 -1.17%)


※米国の介入規模は公表されていません。上記の「50〜100億ドル」はロイターが報じた閣議中のメモの記載であり、実際に投じられた額ではありません。



ポイントは2日目です。1日目の「日本が円を買った」だけなら、正直よくある話でした。2022年も2024年もやっています。異常なのは2日目にアメリカが出てきたことです。




日米が協調して円を買い支えるのは、1998年6月以来28年ぶり。

当時はアジア通貨危機と日本の金融システム不安で円が売り叩かれていた、いわば非常事態でした。それ以来の事態、ということです。


【なぜ“異例中の異例”なのか——3つの異常】



「アメリカが協力してくれた」で終わらせると、この出来事の本当の大きさを見誤ります。異常な点が3つあります。



異常①:アメリカは本来、ドル安を嫌う

円買い介入は、裏を返せば「ドルを弱くする」方向の行為です。通貨が強いことは国の信用そのものであり、米国は歴史的に「強いドル」を国是としてきました。そのアメリカが、他国通貨を支えるために自ら動いた。これだけで通常はあり得ません。



異常②:わざわざ“予告”した

為替介入は本来奇襲です。事前に知られれば投機筋に先回りされ、効果が薄れるからです。ところが今回は、7月30日にNY連銀が米大手銀へレートチェック(介入の前段階とされる値動きの照会)を入れ、翌31日には米財務省が複数の銀行に「介入の可能性がある」と通知しました。2日がかりで、堂々と予告しているわけです。これは効果を捨てた愚策ではなく、逆です。「本気だぞ」というメッセージを、円を売っている世界中の投機筋に直接送りつけた——そう読むほうが自然です。



異常③:ドルではなく“ユーロ”を売って円を買った

ここが今回いちばん面白いところです。円を買うには何かを売らなければなりませんが、米国はドルではなくユーロを売りました




▼ もし「ドル売り円買い」だったら / 実際の「ユーロ売り円買い」



ドル売り円買い(やらなかった)

・円高になる

・同時にドルそのものが弱くなる

・米国の輸入物価が上がる

・「強いドル」の看板に傷がつく


ユーロ売り円買い(実際)

・円高になる

ドルは傷つかない

・痛むのはユーロ

・円は支えつつ、自国の看板は守れる




※米側がユーロ売りを選んだ理由は報じられておらず、上記は筆者の見立てです。ただ「ドルを傷つけずに円だけを支える」という結果になっていることは事実です。



つまりこれは、「自分は損をしない形で、日本を助ける方法」を、わざわざ設計してくれた介入だということです。片手間ではありません。手間をかけて考えられています。



【偶然ではない——積み上げられていた3か月】



では、なぜアメリカはここまでしたのか。「たまたま利害が一致した」で片づけるには、あまりに手順が丁寧です。この3か月の積み上げを見てください。











時期動き
5月12日片山さつき財務相とベッセント米財務長官が都内で会談。片山氏は会談後「全面的に理解を得た」と発言。日本の円買い介入を米側が容認
6月22日両氏がオンラインで協議。急速に進む円安について話し合ったとみられる
6月23日片山氏「必要なら断固たる措置を取るという日米合意は全く揺るぎがない」「日米間の足並みはますます強固」
6月30日約40年ぶりの円安水準を受け、片山氏が改めて「断固たる措置」に言及
7月22日「必要があればいつでも適切に断固たる対応をする」
7月30-31日日本の介入 → 翌日、米国が円買いで続く


見ていただきたいのは、「頼み込んだ」形跡がどこにもないことです。5月に会って理解を得る。6月に確認する。もう一度確認する。そして実際に日本が先に自分で動き、その翌日にアメリカが続いた。



日本は先に自分の身銭を切ってから、相手に並んでもらっています。これは順序として、かなり大事な話です。



【武士道という補助線】



※ここは数字ではなく筆者の解釈です。事実と分けて読んでください。



前回の記事で私は、「郷に入っては郷に従え」の本当の意味は、強い相手に屈服することではなく、相手の立場に身を置いて調和を保つことだと書きました。今回の一連の動きは、まさにそれが実際に機能した例に見えます。



先に自分が動いた(7月30日の単独介入)——他人に出させる前に、自分が11兆円規模を張ってきた側としての筋

相手の面子を潰さなかった——ドル売りを求めず、結果として米国はユーロ売りという「自国の看板を守れる形」で参加できた

対立ではなく信の積み上げで動かした——5月・6月・7月と、公開の場で何度も確認を重ねた



力で押したわけでも、泣きついたわけでもありません。筋を通し、相手の立場を立てたまま、結果として世界最強の通貨当局を自分の側に並ばせた。これを武士道と呼ぶかどうかは人それぞれですが、少なくとも「飲み込まれてただ従っている国」の振る舞いではないことは確かだと思います。



ここは率直に評価していい点だと私は考えています。政権への好き嫌いとは別に、28年ぶりの協調介入を実際に引き出したという結果は、外交の成果として重いものです。



——ただし。ここで話を終わらせると、それこそ前回書いた「なんとかなる、という空気」そのものになってしまいます。だから数字に戻ります。



【では、介入は効くのか——過去の実データ】



ここからが本題です。感動的な話と、儲かる話は別だからです。過去の円買い介入がどうなったかを見てみます。



まず、投じられた金額の推移。日本が「円を買うために使ったお金」です。




▼ 円買い介入額の推移(財務省公表ベース)


1998年6月17日(日米協調)


0.23兆円(2,312億円)




2022年9〜10月(3営業日)

約9.19兆円




2024年4〜5月

約9.79兆円




2026年4〜5月

約11.7兆円(過去最大)



※2026年7月分の介入額は8月28日に公表予定で、まだ数字は出ていません。



そして肝心の「効いたのか」です。1998年の協調介入がどうなったかを見ると、なかなか厳しい現実が見えてきます。




▼ 1998年6月・日米協調介入のその後













146円
介入直前
6/17

133円
2営業日後
6/19

147円
約2か月後
8/11



2営業日で13円の円高という強烈な効果。しかし約2か月後には介入前より円安を更新してしまいました。



2022年も同様で、9月の介入は一時的に効いたものの翌月には150円台へ。ただし10月の介入後は流れが変わりました。つまり過去の実績が示しているのは、こういうことです。




介入は「時間を買う」ことはできるが、「流れを変える」ことは単体ではできない。

流れが変わったのは、介入と同時に金利や景気の前提そのものが変わったときだけでした。


今回もすでに同じ兆候が出ています。7月30日に日本が介入したにもかかわらず、ドル円は8月1日に160円87銭まで戻しました。そこへ2日連続の介入と米国の参戦が重なって、ようやく157円台です。28年ぶりの協調介入という最大級のカードを切って、動いたのは3円ほど——これが冷静な現在地です。



しかも8月1日の終値は157円62銭。安値の157円48銭から、すでに少し押し戻されています。円を売りたい人は、まだ市場に残っているということです。



【今、円を売っている“3つの力”】



介入が押し返しきれない理由は、円安の原因が投機だけではないからです。今の円安を作っている力は、大きく3つあります。



力①:日米金利差(それも“実質”の差)




▼ 政策金利(2026年7月時点)

日本銀行

1.00%

31年ぶりの高さ



FRB(米)

3.50〜3.75%



差し引き 約2.5〜2.75%ポイント。円で持つより、ドルで持つほうが有利な状態が続いています。



日銀は2026年6月の会合で政策金利を1.00%へ引き上げました。1995年以来、実に31年ぶりの水準です。それでも円は買われませんでした。名目の差は縮んでも、物価上昇を差し引いた「実質」の金利差が開いたままだからです。日本は物価が上がっている分、金利を上げても実質では低いまま、という状態です。



力②:原油と貿易赤字

2026年3月のイラン情勢の緊迫化を受け、WTI原油は一時1バレル100ドル超まで高騰しました。その後7月中旬には70ドル台まで落ち着きましたが、下旬に米国とイランの対立が再燃し、再び85ドルを超える水準に戻っています。日本はエネルギーのほぼ全量を輸入しています。原油が上がる=日本が石油を買うために円を売ってドルを買う量が増えるということです。これは投機ではなく、実需の円売りです。介入では止まりません。



——ここで前回の記事を思い出してください。80年前、日本を追い詰めたのも石油でした。形を変えて、同じ急所が今も痛んでいます。



力③:財政への不安

「円に対する信認」そのものへの疑いです。積極財政を進める一方で、その財源をどうするのか。この不安が残る限り、円は売られやすくなります。介入の原資である外貨準備も無限ではありません。



【ドル円はどこへ行くのか——3つのシナリオ】



ここまでの材料を踏まえて、3つのシナリオとその分岐条件を整理します。「どれになるか」より、「何を見ていれば分かるか」のほうが役に立つはずです。




シナリオA:円高転換(145〜152円へ)


起きる条件:

・原油価格が下がる(中東情勢の沈静化)

・日銀が年内に追加利上げ(1.25%以上)へ動く

・FRBが利下げに転じ、金利差が実質ベースで縮まる

今回の協調介入の意味:この転換までの「時間を稼ぐ」役割。1998年も2022年も、流れが変わったのは金利の前提が動いたときでした。




シナリオB:もみ合い継続(153〜160円台前半のレンジ)


起きる条件:

・原油高が続き、日米の金利差も大きく動かない

・当局が高値圏で断続的に介入を続ける

特徴:介入が「上限のフタ」として機能し、円安は進むが加速はしない状態。最も可能性が高いのはここだと私は見ています。ポイントは、今回160円87銭で実際に介入が入ったこと。当局が黙って見ていられる上限がどのあたりかを、市場は目で見て確認したことになります。




シナリオC:円安再加速(161円超へ)


起きる条件:

・原油がさらに上昇し、貿易赤字が拡大

・日銀が利上げを見送る

・米国が協調姿勢を後退させる(政権の関心が他に移る)

・外貨準備の減少で介入余力が意識される

怖い点:28年ぶりの協調介入という最大級のカードを切った後にこの水準を抜けると、「もう打つ手がない」と受け取られかねません。



当面のチェックポイントは4つです。

週明け:日米両政府が円安是正に向けた方針を表明するとの報道(共同通信)。何がどこまで示されるかで、今回の介入が「単発」か「継続的な枠組み」かが分かれる

8月28日:財務省が7月分の介入額を公表(実弾がどれだけ使われたか判明)

8月下旬:ジャクソンホール会議(FRBの姿勢と、日銀の秋の利上げ観測を左右)

原油価格:中東情勢とWTIの水準(実需の円売りが減るか)



【今回分かった一番大事なこと】



整理すると、こうなります。



事実として、日本は28年ぶりの日米協調介入を引き出した。しかも米国が「自国のドルを傷つけない形」で参加するという、丁寧に設計された協力だった

経緯として、それは頼み込んで得たものではなく、5月・6月・7月と信を積み、自分が先に動いてから並んでもらったものだった

しかし数字として、円は今も157円台にいる。過去の介入は例外なく「時間を買う」ことしかできていない

なぜなら、円安の正体は投機だけでなく、実質金利差・原油・財政という構造だから



ここで、前回の問いに戻ります。「日本は資本主義という秩序に飲み込まれ、ただ従うだけになってはいないか」——今回の答えは、少なくとも「ノー」でした。



日本は秩序の外に出たわけではありません。ドルという基軸通貨が世界を回している構造は、1ミリも変わっていません。それでも、その内側にいながら、筋を通して相手を動かした。80年前、同じ資源の急所を抱えた日本には、選べる手が「戦うか、ジリ貧か」の二択しかありませんでした。今回は、戦わずに、相手に並んでもらうという三つ目の手がありました。これは、率直に大きな違いだと思います。




秩序の外には、誰も出られない。

けれど、その内側でどう立つかは、まだ自分で選べる。

——力で押すのでも、飲まれるのでもなく、筋を通して並んでもらうこと。

それが、この国がまだ持っているもう一つの武器なのかもしれない。


ただ、最後にもう一度だけ現実的な話をさせてください。外交がどれだけ見事でも、あなたの円の価値を守ってくれるわけではありません。28年ぶりの協調介入という歴史的なカードを切ってなお、円は157円台です。物価は上がり続けています。



感動する話と、自分の資産を守る話は、切り離して考える必要があります。国がやってくれたことに敬意を払いつつ、それでも自分の足元は自分で見る——前回の記事で「与えられた空気を、一度は自分の数字で疑ってみること」と書いたのは、まさにこういう場面のためでした。




最後に——これは憶測の域を出ません

本記事のうち、米国がなぜドルではなくユーロを売ったのかそれを武士道と呼べるのか、そしてこれからドル円がどこへ向かうのか——この3つは、いずれも憶測の域を出ません


公表されているのは「何が起きたか」までです。「なぜそうしたのか」も「これからどうなるか」も、当事者以外の誰にも断定できません。米国の介入規模すら公表されていません。ここに書いたのは、公開情報から私なりに組み立てた一つの読み方にすぎない、という点だけは、はっきりお伝えしておきます。


だからこそ、この記事を読んで「なるほど」と思っていただけたとしても、それをそのまま信じないでください。——前回も今回も、私が一貫してお伝えしたいのは、結局そこです。


※本記事は2026年8月1日時点で報じられている情報・公表データに基づく簡易的な整理であり、情報提供を目的としたものです。米国の介入規模は非公表であり、日本の7月分の介入実績も未公表(8月28日公表予定)です。

※為替水準に関する「約40年ぶり」等の表現は報道により基準・数値に幅があります。

※本記事は特定の政治的立場や政策評価を推奨するものではなく、また特定の金融商品の売買を推奨するものでもありません。為替・株式・投資信託などにはいずれも価格変動による損失リスクがあります。シナリオはあくまで筆者による簡易的な想定であり、将来の相場を保証するものではありません。投資判断は必ずご自身の責任において行ってください。

※税金・手数料は考慮していません。



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