退去手続きをするため、出発する1時間前に老人ホームに到着した。
前日にお風呂に入れてもらったが、夜に伯父が汚すことも考え、パジャマを1組アンダーシャツ1枚と今日の着替えを1組お部屋に置いていた。
また、持って行く分のティッシュや目覚まし時計などの小物はショッピングバッグに入れて、お部屋に置いてあった。
処分するものは前日に持ち帰って、寄贈する消耗品は下駄箱の上にまとめ、クローゼットにはクリーニングしてもらいそのまま寄贈する敷布団やマットレスしか残っていない。
小物が入ってるショッピングバッグと昨日着た衣類を取りに、施設長さんとお部屋行った。
お部屋…
大惨事…
防水シーツも床も、便で汚れ。
玄関横に便で汚れたパジャマや下着が放置してあった。
もちろん、お部屋はものすごいニオイ…
小物が入っていたショッピングバッグは取ったが、便で汚れた衣類を持って行くわけにもいかないので、このまま廃棄してもらうようにお願いした。
そっか…
お掃除の方がいらっしゃるから、汚れたものを介護職員さんが片付けることは無いんだ。
それはお仕事が分担できて、介護職員さんは介護に集中できるけど、だから、お部屋の尿臭や便臭がこびりついてしまうのね。
本来はその日、出発前に退去の手続きをするのだけど、福祉ベッドも運び出しが終わっておらず、お部屋も汚れたままなので改めて後日、確認することとなった。
持参した荷物などをまとめ、エントランスで伯父を待つ間、預け金を清算したり、保険証や医療証、紹介状や診療情報提供書などを受け取った。
伯父はお昼ごはんを食べ、リハビリパンツからオムツに替えてもらい、エントランスに連れて来てもらった。
その日は、とても寒かったので、用意していたフリースのハーフコートを着せ、ひざ掛けを掛けた。
ふたりで介護タクシーを待つ間、また、わたしの自己紹介から…
「こんにちは!伯父さん。妹の〇子の娘の ちぃです。」
「あーそう」
え?
今、はっきり「あーそう」って言った?
「今日は、少し長い時間、車に乗りますよ。」
「そーあの?」
やっぱり少しろれつが回らないけど、少し発音は良くなって聞き取りやすくなった気がする。
会話のレスポンスも変わらず、すぐに返事が返ってくる。
伯父さんの手を見ると、健診で総合病院に連れて行った時は、手が浮腫んで動かしにくそうだったけど、なんとなく今日はスッキリしている気がする。
「ちょっと伯父さん、手を握ってみて!」
この間のように右手を触ってもイヤがって引っ込み無いし、左手に比べたら弱いけど、でも6割くらいの力で握れる!
おー!これはがんばれば、自分でごはんたべられるじゃないの!!
ミキサー食になり介助も必要になって、伯父はこの1ヶ月でかなり痩せていた。
わりと四角いおばあちゃん似の顔だったのに、あごが尖って鼻が高く、イケメンだったおじいさんに似た顔つきになってる。
髪型はソフトモヒカン… モテてしまうねw
なんて話をしていたら、介護タクシーが到着した。
伯父を王様のイスのような車椅子に乗せてもらい、荷物も全部運んでくれた。
わたしはまた、退去手続きにくるので簡単にお礼を言い、施設長さんに見送られて出発した。
その日は、くもりの予想で降水確率も低かったし空は明るいのに、介護タクシーが到着したと同時に雨が降ってきた。
折角、桜が満開なのに。
うれしいけれど不安も多い、わたしの気持ちのような…
そんな複雑な天気だった。