伯母が転居して、半月経った。
伯母の服を整理する時、クローゼットで洗ったのか洗ってないのか分からない伯父のトレーナーを2枚見つけて持ち帰ってきた。
すぐに洗濯をしていたのだが、どうしても老人ホームに足が向かなかった。
でも、このところ寒くなってきたので、持って行くことにした。と言ってもやっぱり、とても行く気になれない…
なんて思いながら、老人ホームとは反対方向のバスに乗り、駅前のデパートでお菓子の詰め合わせを買った。
デパートは、少し歩くだけで楽しい気分になる。
自分へのご褒美に、ちょっと高級なつぶあんの草餅も買った。
届けるだけだから、特に事前に連絡を入れていないけど、午後のレクが始まる少し前に到着した。
事務員さんとかは居なくて、インターホンを鳴らすと近くにいる職員さんが対応してくれるシステム。
いつもお世話になっている相談員さんはいらっしゃらなくて、玄関で初めてお会いする職員さんに洗濯物を渡して、お菓子の詰め合わせも渡した。
伯母が退去した日は忙しくて、ちゃんとお礼を言えなかったことを伝え、改めて「職員のみなさんには大変お世話になりました。」とお礼を言った。
「会って行きますか?」と言われたが、伯父が大好きな午後のレクの時間。
また、会ったところで、レクが気になって気もそぞろだし、すぐに椅子を立ってしまうだろう。と断った。
最近の伯父の様子を聞いた。
相変わらず、朝の失禁が続いているようだった。
以前飲んでいた前立腺のお薬を一旦やめて様子をみていたけど、それが原因かもしれないので、次回、訪問医の診察があった場合、先生に相談してもらうようにお願いした。
きっと、また先生から直接電話かかってくるだろうな…。
それから、一日に何度か「おかあちゃん(伯母)どこに行っただろう?」と聞いてくるけど、それが「おかあちゃんどこに行っただろう?」に「あれ?妹だっけな?」が混じってきたらしい。
職員さんは「奥様は、入院しましたよ。」と言ってくれているとのこと。
もう、いつも一緒に居た人が居なくなったけど、だれが居なくなったのか、分からなくなってしまったということか…。
まぁ…入居して1年経った頃には、自分が工芸品を作って生計を立てていたことも忘れていたからな。
「え?〇〇?そうなの?そんなのが家にあるの?へー!」って言われた時は、こちらが認知症で妄想があるのかと思ってしまった。
今年の初めには、自分がどこに住んでいたかも忘れてしまっていた。
認知症は、時間と共にバッサバサと記憶を削り取っていく。
でも、誰か分からなくても身近な人が居なくなった「淋しさ」とか、自宅がどこかわからなくても家は落ち着くから「帰りたい」とか漠然とした思いでのような感情が残っているんだろうな。
それが原因で不安を感じてないといいな。
まぁ、伯父はもうメタ認知がダメなので、自分の姿や状態、置かれた状況がどうなってるか、それでどう困ったことが起きるのか、分かってないから救い。
やっぱり認知症は、最強だな!
長生きしてくれ!!
と思ったけど、たまたま遠目に見えた伯父の姿は、職員さんに腕を抱えられ、パーキンソン症状のような小股の摺り足とカニ歩きでやっと椅子に座らされていた。
2年前の入居直前まで、自転車に乗ってアイスクリーム買いに行っていたのに…
実は、半年前から、送られてくる写真に表情がない。
目は白目が見えない空洞のような黒目だけになっている。
もう、あんなに楽しみにしていたのに、レクに参加するどころじゃないんだな。
認知症は、時間と共に肉体の機能も削り取っていく。
特養は間に合うかな?
もう90歳。
1年単位だったのが、半年単位とか3ヶ月単位で寿命を考えるようになった。
だから、伯母と離したくなかったよ。