母とカズちゃん伯母さんが上京してくる日。

 

昼で早退のはずが、ごはんも食べず仕事をやっつけて、
二人には自力で伯父宅まで来てもらい、

午後3時にやっと合流した。

数年ぶりに伯父の家に着き、玄関ホールは以前にも増して

伯父の作品で溢れかえっていた。

あいさつをして、家に上がると居間は…

 

鼻が一瞬でダメになるほどの尿臭。ガーン

明らかに、どちらか もしくは両方に失禁がある。
しかも、最近のことではない。

元々、物があふれている家だったけど、

布団の綿にできそうな厚みでホコリが積もった

何かわからない重なり合った物でできた山の隙間に

伯父と伯母が居た。

電気もつけず日の当たらない薄暗い居間の

座布団3枚分の空間で
伯父と伯母二人は生活していた。

どちらも別人のように痩せこけて…

 

母とカズちゃん伯母さんは面食らって何も話しができない。

というか臭いで息ができない。


伯父に病院の入院関連の書類を出すように言ったが、
どこに置いたか本人が分からない。
入院の時に必要なものの準備ができてるか尋ねると、
「出来てる。大丈夫だ。」と出してきたのは、

20cm×20cmくらいの巾着に
保険証類と歯ブラシ1本とパンツが1枚…

伯母は焦点が合わないうつろな目で座っていて、

一言も話さない。
声をかけると戸惑ったような笑顔。

テーブルの端から端まで何らかの紙がぎっしりと

ブックエンドで挟まれてる中を、三人で捜索した。

やっと入院の案内を見つけて、同意書に目を通すと、
「鼠径ヘルニア手術」と書いてある。

 
伯父にどんな手術?と聞いても、全く説明ができない。
入院準備もこれでいい。
付き添わなくても自分で入院できる。と言い張る。

 

きっと困ったから妹に葉書を書いたのに…

妹を前にすると、兄のプライドが目覚める。

それとも人に頼った事も頼られた事もないから、

どうしていいのか分からないのかもしれない。

 

これはマズイ!と思って、裏に住む伯母の妹さんを訪ねた。


よくある姉妹のトラブルで、隣に住んでいるのに数か月前まで
あまり行き来がなかった伯母と伯母の妹さん。
お会いするのは、もちろん初めてだった。


伯母は重度の認知症だった。


伯父は手術が決まった日に「ガンになった」と

義妹さんに言いに来て、話している間に玄関で倒れ

救急車で運ばれたらしい…。

 
でも、ガンではなく 鼠径ヘルニア!脱腸!!

 

今日は、ちょっと伯父の家に顔を出して、

入院手術に付き添って、病気の詳細と予後を聞いて、

今後どうするか伯父伯母と話し合って帰るつもりが、

もう、何が何だかわからなくなって、

知りたくなかった現実に完全に機能停止している 

おばあさん二人を引きずって帰った。
 

帰宅ラッシュの新宿駅で乗り換えて、1時間。

自宅の最寄駅に着いたら、ベンチに座らせダッシュで
駅ビルでお弁当を買い、おばあさんたちに持たせた。


わたしたち、かなり尿臭すると思うし…
タクシーに乗せようと思ったけど、バスで行けるというので、
何番目のバス停で降りるか念を押して、バスに乗せた。

 

おばあさんたちは、何も話さず、白く小さくなってた。