しかしながら自分なりに慎重に選んだリストからピックアップしているため、かなり濃度の高い刺激的読書時間を過ごせていると感じている。
人間が他の動物と異なり決定的な進化の差を遂げたのは、自分以外の世界を体験できる能力を持ったことに尽きると思う。一人の人生の経験など、どれほどドラマティックだったとしても世界の広さに比べたらほんの小さな瞬きにしかすぎない。そして死とともにその生きた歴史は空中へ霧散してしまう。しかし我々は、自分の人生を他に語り、また他の人生を学ぶことができる。去り行く者の歴史を語り継ぐこともできるし、見知らぬ時代の出来事を伝え聞くこともできる。生まれた発想や技術は地形と時を越えて継がれながら進化し、過ちを繰り返さないよう戒めながら、人間の文化はここまで成長した。
素晴らしい本に出会いその世界に浸かったとき、自分という小っぽけな人間の人生が幾重、幾枝にも拡がる感覚を覚える。それは何人もの人々の人生を同時疑似体験しているようでもある。何百回と生まれて死ななければ得られない(それでも得られない)知識と知恵を得られるのである。
もちろん疑似体験だけでは意味が無い。インプットした以上、自分の中で加工してアウトプットしなければならない。それはある種、使命のようでもある。お金と同じで、自分のところだけに蓄えようと思ったら、流れが滞ってしまう。すると流れを止めてしまうそこへは逆に集まらなくなる。
自分で物語を紡ぎ、人に語れるようになりたいものである。そして語られるような生き方をしたいと思うのである。素晴らしい本に出会うたびに、いつも再認識させられる願望だ。
ここ1ヶ月で読んだ本の中で特に良かったものの紹介。
沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)/山崎 豊子

¥620
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全5巻だが、壮絶かつリアルな物語で、あっという間に読みきれる。人生における信念の所在から日本の社会構造まであらゆる角度から考えさせられる。
1Q84 BOOK 1/村上 春樹

¥1,890
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こちらも全3巻と長編だが、2~3人の物語が同時進行で贅肉の無いスピーディーな進行であるため、やはりあっという間に読みきってしまう。村上春樹をよく読む人からすると、他作品で使いまわされた表現やプロットが散見されるように感じると思うが、「現実」というものの根本を疑ってかかる切り口と、それでいてリアルの原則を踏まえた独特の描写と世界は圧巻である。
企業分析シナリオ (BEST SOLUTION)/西山 茂

¥2,520
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僕は会計・財務を英語で教育されたため、パッと日本語に置き換えられない。そこで学んだことのおさらいも兼ねて、日本語脳で再認識するために選んだ本。実際の企業の例がふんだんに取り入れられていて、説明も非常に分かりやすい。これ1冊だけで、かなり広く財務分析の基本知識が復習できると感じた。
思考の整理学 (ちくま文庫)/外山 滋比古

¥546
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仕事上で処理すべきタスクが増大するにつれ、自分の頭の中の整理が必要だという危機感を覚えつつあった。脳の構造を踏まえ、「時」を味方につけるという思考の整理法は目から鱗だった。83年刊行ではあるが、全く古くは感じない名著。
他にも紹介したい本はあるが、また機会があれば。