「さて、今日の講義はお仕舞いじゃ。相談とやら、きこうかの」
そばに控えていたメイドのジルがにっこり会釈して、衣装箪笥を開け、セラとアイ、二人のローブを取りだしました。
まだ初春です。夕方には冷えこむのです。ジルはよくできたメイドでした。
セラとアイはローブを羽織って、ふかふかのソファに座りなおしたのですが、なかなかロビンとお互い見つめあっていて口をひらけません。ロビンはただ優しく微笑んでいました。口火を切ったのはセラでした。
「わたくしたち、16歳にもなって、まだ都の舞踏会に出たことがないのよ。招待状は何回もきているんだけど、お父様が行かせてくれないの――」
そこでアイは、扇子をパッと広げて、視線を自分のほうに向けさせました。アイは激しくNipponのヲタクでありました。その扇子には、桜がはらりはらり散っているさまが描かれていました。桜は散る姿が美しいっていうのがNipponの美意識よ、というのがアイの口癖でした。
「それで。わたくしたち、都にいきたいの。王宮で王子様と恋とかになってしまったら、どうしようかしらっ」
アイはくすりと笑う口元を扇子で隠しました。
「アイ…発想が飛躍しすぎよ。まずはウンディーネ大公園に行きたかったんじゃないの?」
セラが小馬鹿にして、アイの横顔を見ます。アイは慌てました。
「うっ…そ、そうよ!手始めにはね。それで、その次に舞踏会でしょ」
「そうそう。ロビン、どうかしら?」
「どうお父様に説得して行けるかしら?」
「――ほほ、都か。お父上は何かしらのお考えがあってそうされているに違いない。わかった。わしが交渉してみようじゃないか」
ロビンがこちら側についてくれるならば、利はセラとアイ側にありました。二人は顔を見合わせて、わくわくした気持ちをお互い確かめ合いました。
さて、ここで北方地方を荒らす黒賊のことを説明しておきましょう。
(ヴィスが全然説明しない様子なので。
ヴィス本人のことはのちのち分かると思います。)
北方地方の人々はみな黒賊には恐れおののいて、家の中にはいってきて金目のものをとっていかれても抵抗しようともしませんでした。その黒賊に目をつけられたのがヴィスです。いつも通り街の裏道で暮らしていたヴィスですが、
「どけよ、邪魔だ」
というヴィスの発言がきっかけで黒賊の下っ端と喧嘩になり、ヴィスが華奢な体格のくせして相手をねじ伏せたところ、それを見ていた黒賊幹部に声をかけられ、仲間にならないかと誘われて、アジトまで行ってご馳走を山のようにたいらげたあと、
「仲間にはならない」
と断ったら、黒賊幹部がキレて、追いかけられる羽目になってしまいました。
ヴィスがはなった銃撃は彼がプロであることを教えていました。一人一発。黒賊幹部がヴィスの銃をみて驚いたことが何故なのかものちのち分かるでしょう。
その頃、幹部が一度に五人も亡くなった黒賊アジトでは、ヴィスを狩ったやからが幹部になれるという取り決めごとがなされていました。
ヴィスは数学をオーロラに教わったあと、古びた橋のたもとで寝ていましたが、風の便りでそのことを耳にしました。大変です。ヴィスとてこれ以上争いごとはしたくありませんでした。
つづく
そばに控えていたメイドのジルがにっこり会釈して、衣装箪笥を開け、セラとアイ、二人のローブを取りだしました。
まだ初春です。夕方には冷えこむのです。ジルはよくできたメイドでした。
セラとアイはローブを羽織って、ふかふかのソファに座りなおしたのですが、なかなかロビンとお互い見つめあっていて口をひらけません。ロビンはただ優しく微笑んでいました。口火を切ったのはセラでした。
「わたくしたち、16歳にもなって、まだ都の舞踏会に出たことがないのよ。招待状は何回もきているんだけど、お父様が行かせてくれないの――」
そこでアイは、扇子をパッと広げて、視線を自分のほうに向けさせました。アイは激しくNipponのヲタクでありました。その扇子には、桜がはらりはらり散っているさまが描かれていました。桜は散る姿が美しいっていうのがNipponの美意識よ、というのがアイの口癖でした。
「それで。わたくしたち、都にいきたいの。王宮で王子様と恋とかになってしまったら、どうしようかしらっ」
アイはくすりと笑う口元を扇子で隠しました。
「アイ…発想が飛躍しすぎよ。まずはウンディーネ大公園に行きたかったんじゃないの?」
セラが小馬鹿にして、アイの横顔を見ます。アイは慌てました。
「うっ…そ、そうよ!手始めにはね。それで、その次に舞踏会でしょ」
「そうそう。ロビン、どうかしら?」
「どうお父様に説得して行けるかしら?」
「――ほほ、都か。お父上は何かしらのお考えがあってそうされているに違いない。わかった。わしが交渉してみようじゃないか」
ロビンがこちら側についてくれるならば、利はセラとアイ側にありました。二人は顔を見合わせて、わくわくした気持ちをお互い確かめ合いました。
さて、ここで北方地方を荒らす黒賊のことを説明しておきましょう。
(ヴィスが全然説明しない様子なので。
ヴィス本人のことはのちのち分かると思います。)
北方地方の人々はみな黒賊には恐れおののいて、家の中にはいってきて金目のものをとっていかれても抵抗しようともしませんでした。その黒賊に目をつけられたのがヴィスです。いつも通り街の裏道で暮らしていたヴィスですが、
「どけよ、邪魔だ」
というヴィスの発言がきっかけで黒賊の下っ端と喧嘩になり、ヴィスが華奢な体格のくせして相手をねじ伏せたところ、それを見ていた黒賊幹部に声をかけられ、仲間にならないかと誘われて、アジトまで行ってご馳走を山のようにたいらげたあと、
「仲間にはならない」
と断ったら、黒賊幹部がキレて、追いかけられる羽目になってしまいました。
ヴィスがはなった銃撃は彼がプロであることを教えていました。一人一発。黒賊幹部がヴィスの銃をみて驚いたことが何故なのかものちのち分かるでしょう。
その頃、幹部が一度に五人も亡くなった黒賊アジトでは、ヴィスを狩ったやからが幹部になれるという取り決めごとがなされていました。
ヴィスは数学をオーロラに教わったあと、古びた橋のたもとで寝ていましたが、風の便りでそのことを耳にしました。大変です。ヴィスとてこれ以上争いごとはしたくありませんでした。
つづく