芸人・なだぎ武さんのいじめ体験③ 〔不登校・ひきこもり〕 | ら・鮮・快・談

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村地鮮(むらち・せん)による、自然観察・文学逍遙・野宿紀行・哲学考察などのカオスに満ちた未定型雑記。つまり、あちらからのもらい物に目を凝らし、耳をすませ、あれこれ考えてみた雑記です。

後編・〝好き〟がエネルギーになる

芸人・なだぎ武さんが中学時代にいじめに遭い、その後ひきこもり状態に陥った。そして、その後つらい状況から脱した経緯についてインタビューした記事があったので紹介し、いじめ問題を考えています。(聞き手:たかまつななさん「たかまつななチャンネル」より)

最終回のタイトルとして私は〔〝好き〟がエネルギーになる〕という言葉が浮かんだのでそうしました。ひきこもり状態から反転していくエネルギーは、〝好き〟にあったのだということです。自分のなかにあったのです。


ーー(3年間のひきこもりを経て)変化のきっかけは何だったのでしょうか?


あるとき急に「このままでいいんかな」って思ったんですよ。心の中でポッと、種火みたいに生まれた感情なんですけど。

たまたま、テレビで映画『男はつらいよ』を見て、主人公・車寅次郎のキャラクターに衝撃を受けたんです。

寅さんは「フーテンの寅」と呼ばれていて、今で言えば「ニート」ですよ。

でも愛嬌があって、いろんな人に愛される。めちゃくちゃ最低でどうしようもないけど、心があったかいから、寅さんのいるところに人が集まってくるんです。寅さんのような人間になりたいなあって思いました。

ーー憧れたんですね。

ただ、すぐに「だめだ、俺は寅さんにはなれない」と思うわけです。なぜなら人見知りやし、女の子ともしゃべれん。人望もまるでない。

それでも、たった一つ、寅さんに少しでも近づくために「できること」があると気づいた。それが一人旅でした。

今まで一人旅どころか、部屋の外にさえ出ていなかったのだけど、勇気を振り絞って一人で旅に出たんです。

今のように携帯がない時代だから、道がわからなかったら人に聞くしかないんですよ。最初はどうしようと随分悩みながらも、勇気を出して通りすがりの人に声をかけて、道を尋ねることができました。

歩いている人に道を聞けた。それだけでめちゃくちゃ自信につながったんです。

「聞けた。めっちゃ嬉しい。なんだこの感情」って。それで歩いていると、また道が分からなくなるんだけど、2回目にはもう「さっき聞けたんだから、次も聞けるだろう」と思える。一度できたことが、自信の積み木になるんですよ。

道を聞いたら教えてくれた。それはつまり人の優しさをもらったということです。だから次第に感謝の気持ちが生まれてくるんですよ。

いじめられて、誰にも助けてもらえなくて、感謝なんて気持ち、それまで知りませんでした。そんな人間が、「ありがとう」の感情を覚えるんです。もうレベルアップですよ、タラララッタッターって(笑)。

旅先ではいろんなハプニングがあったんですが、そのたびに誰かが助けてくれて、優しくしてくれた。家に帰ったときには、出発したときの自分とは全然違う自分ができあがっていたんです。


ーーなだぎさんはその後お笑いの世界に進み、R-1優勝などを経て、現在も活躍されています。引きこもっていたことを考えると、信じられない変化ですね。

それこそ自著のタイトル『サナギ』のように、僕は本当にサナギだったんですよね。

暗い部屋の中でしか存在しない、それでいいと思っていた。今、スポットライトを浴びる世界にいて、人前で何かやって笑ってもらえることがうそのようです。


ーー引きこもっていた時期は、自分にとって必要だったと思いますか。

今となっては、そうですね。そのときに読んだ本やマンガ、聞いた音楽、見た映画は、自分のネタの引き出しになっている一面があります。

あと、僕は親から「早く部屋を出なさい」と急かされたことが一度もなかったんです。そのおかげで、自分自身で「このままでいいんかな」と気づけたのだと思います。


どうでしょうか。「種火みたいに生まれた感情」は、自分のなかに生まれたものであり、ひきこもっていたときに見聞きしたものが後々の「引き出し」になっていた。それは、〝好き〟が元であった。自分自身のなかにあったんだということだと思います。終わり