ストーリーだけはよく知られている深沢七郎の『楢山節考』。
辰平の「おっかあ、雪が降ってきたよう。」という言葉は強く印象に残る。
1956年に書かれたこの短編は、当時の辛口な文芸評論家や小説家たちにも絶賛され、正宗白鳥などはこの物語を「人生永遠の書」として読んだ、と評価した。
今回初めて読んでみたところ、実はほとんど感動しなかった。
本書の解説を担当した日沼倫太郎は、深沢の作品を「心理とか感情とかはいっさいみとめない」ものであるとし、人間を含めたあらゆるものが「物として処理」されていると述べている。
深沢は徹底した「アンチ・ヒューマニスト」なのだ、と。
なるほど、そうした人間観が自分の感動を引き起こさなかったのかもしれない。
深沢七郎は、恐らく安易なヒューマニズムで御涙頂戴を狙うような作家ではないのだ。
ところで、深沢は、『白鳥の死』というエッセイの中で、『楢山節考』の主人公おりんには、イエスと釈迦の両方を体現させている、と述べている。
積極的に死を受け入れようと最後まで明るく振る舞うおりんは、確かに自己犠牲の精神に加え、死を恐れるべきものとして捉えず、それを超克しているようである。
この物語に教わることはまだまだ多いのだろう。

