悪条件重なり最大潮位 予測可能でも脅威は大
1959(昭和34)年9月26日、紀伊半島に上陸した台風15号は東海、近畿地方を中心に大きな被害をおよぼした。5098人もの死者・行方不明者をだした伊勢湾台風だ。その教訓は、戦後日本の防災対策の原点となり、60年代以降は台風による死傷者数が大幅に減少した。しかし、近年はゲリラ豪雨など新しいタイプの風水害の脅威が増し、地球温暖化による台風の強大化も懸念される。将来の大規模災害に備えるためにも、発生から半世紀を迎える伊勢湾台風を改めて検証してみたい。(中本哲也)
■高潮
伊勢湾台風は、どんな台風だったのか。なぜ、被害が大きくなったのか-。
京都大学防災研究所の林泰一准教授は「伊勢湾台風では、高潮による浸水被害が突出して大きい。上陸時の勢力が強く、高潮災害につながる悪条件が重なった」と説明する。
名古屋港で389センチという観測史上最大の高潮が記録され、名古屋市や三重県四日市市など伊勢湾沿岸は大規模な浸水被害に見舞われた。
高潮が拡大した条件は、(1)低い気圧(2)強い風(3)地形的要因-の3つがある。
まずは気圧。9月21日にサイパン島の東海上で生まれた伊勢湾台風は急速に発達し、23日夜には中心気圧が895ヘクトパスカルまで低下した。通常は日本列島に近づくころには勢力が弱まるが、伊勢湾台風は「あまり衰えずに非常に強い勢力を保ったまま日本列島に達した」(林さん)。
上陸時の中心気圧は929ヘクトパスカル。1ヘクトパスカルの気圧低下で、海面水位は1センチ上昇するので、約70~80センチの水位上昇をもたらしたと考えられる
■強い南風
反時計回りに吹く台風の風は、進路の右では台風自身の速度が加わって強まる。このため、北上する台風の東側では強い南寄りの風が吹く。伊勢湾台風は上陸後に速度を急に上げたため、停滞時間が短かった反面、風速はさらに増した。
この結果、遠浅で南側に開いた伊勢湾に強風で海水が吹き寄せられ、観測史上最大の高潮をもたらした。
林さんは「台風の進路、速度、地形要因が、観測史上最大の高潮災害をもたらしたが、最大潮位は満潮と重なってはいない。満潮でなくても高潮が起こることは、伊勢湾台風の教訓の一つです」と語る。
当時は気象衛星の雲の画像はまだない。だが、同心円状の等圧線が狭い間隔で日本列島をほぼ覆っている天気図は、伊勢湾台風の強大さを物語っている。
■観測・予報
伊勢湾台風をきっかけに、62年に災害対策基本法が制定された。高潮対策では、全国的に伊勢湾台風を基準として防潮堤が整備されるなど、防災対策の充実が図られた。
66年からは、気象衛星による観測の時代を迎え、78年から運用が始まった気象衛星「ひまわり」によって台風の雲の画像が一般に浸透した。観測技術や予報精度も向上し、台風は「予測できる災害」になったともいえる。
だが、今でも台風被害は毎年起こっている。新潟県中越地震(死者68人)が起きた2004年には、10個もの台風が上陸し、23号だけで99人の死者・行方不明者を出した。
発生が予測できない地震の怖さには敏感だが、予測可能な台風の恐ろしさに対しては、私たちは鈍感になってはいないだろうか。
林さんは、2005年に米南部を襲ったハリケーン「カトリーナ」を例に挙げて、こう警鐘を鳴らす。 「分かっていても台風が来てからでは逃げることはできない。現代でも、台風は大きな脅威を秘めていることを忘れてはならない」
http://sankei.jp.msn.com/science/science/090921/scn0909210747000-n1.htm
1959(昭和34)年9月26日、紀伊半島に上陸した台風15号は東海、近畿地方を中心に大きな被害をおよぼした。5098人もの死者・行方不明者をだした伊勢湾台風だ。その教訓は、戦後日本の防災対策の原点となり、60年代以降は台風による死傷者数が大幅に減少した。しかし、近年はゲリラ豪雨など新しいタイプの風水害の脅威が増し、地球温暖化による台風の強大化も懸念される。将来の大規模災害に備えるためにも、発生から半世紀を迎える伊勢湾台風を改めて検証してみたい。(中本哲也)
■高潮
伊勢湾台風は、どんな台風だったのか。なぜ、被害が大きくなったのか-。
京都大学防災研究所の林泰一准教授は「伊勢湾台風では、高潮による浸水被害が突出して大きい。上陸時の勢力が強く、高潮災害につながる悪条件が重なった」と説明する。
名古屋港で389センチという観測史上最大の高潮が記録され、名古屋市や三重県四日市市など伊勢湾沿岸は大規模な浸水被害に見舞われた。
高潮が拡大した条件は、(1)低い気圧(2)強い風(3)地形的要因-の3つがある。
まずは気圧。9月21日にサイパン島の東海上で生まれた伊勢湾台風は急速に発達し、23日夜には中心気圧が895ヘクトパスカルまで低下した。通常は日本列島に近づくころには勢力が弱まるが、伊勢湾台風は「あまり衰えずに非常に強い勢力を保ったまま日本列島に達した」(林さん)。
上陸時の中心気圧は929ヘクトパスカル。1ヘクトパスカルの気圧低下で、海面水位は1センチ上昇するので、約70~80センチの水位上昇をもたらしたと考えられる
■強い南風
反時計回りに吹く台風の風は、進路の右では台風自身の速度が加わって強まる。このため、北上する台風の東側では強い南寄りの風が吹く。伊勢湾台風は上陸後に速度を急に上げたため、停滞時間が短かった反面、風速はさらに増した。
この結果、遠浅で南側に開いた伊勢湾に強風で海水が吹き寄せられ、観測史上最大の高潮をもたらした。
林さんは「台風の進路、速度、地形要因が、観測史上最大の高潮災害をもたらしたが、最大潮位は満潮と重なってはいない。満潮でなくても高潮が起こることは、伊勢湾台風の教訓の一つです」と語る。
当時は気象衛星の雲の画像はまだない。だが、同心円状の等圧線が狭い間隔で日本列島をほぼ覆っている天気図は、伊勢湾台風の強大さを物語っている。
■観測・予報
伊勢湾台風をきっかけに、62年に災害対策基本法が制定された。高潮対策では、全国的に伊勢湾台風を基準として防潮堤が整備されるなど、防災対策の充実が図られた。
66年からは、気象衛星による観測の時代を迎え、78年から運用が始まった気象衛星「ひまわり」によって台風の雲の画像が一般に浸透した。観測技術や予報精度も向上し、台風は「予測できる災害」になったともいえる。
だが、今でも台風被害は毎年起こっている。新潟県中越地震(死者68人)が起きた2004年には、10個もの台風が上陸し、23号だけで99人の死者・行方不明者を出した。
発生が予測できない地震の怖さには敏感だが、予測可能な台風の恐ろしさに対しては、私たちは鈍感になってはいないだろうか。
林さんは、2005年に米南部を襲ったハリケーン「カトリーナ」を例に挙げて、こう警鐘を鳴らす。 「分かっていても台風が来てからでは逃げることはできない。現代でも、台風は大きな脅威を秘めていることを忘れてはならない」
http://sankei.jp.msn.com/science/science/090921/scn0909210747000-n1.htm