伊藤靖


確率微分方程式 を生み出した。伊藤の補題 (伊藤の定理)でその名を知られる。さらに、確率積分 を計算する上で重要な伊藤の公式 (伊藤ルール)は確率解析学において革命的な公式といえよう。特に伊藤の公式は確率解析学 における基本定理で確率積分の計算手段を示したもので、この公式無しでは確率解析における計算はほぼ不可能といえる。


従来、方程式で表現することができるのは直線もしくは一定の規則性を持つ曲線のみで、まったくランダム な曲線(フラクタル 曲線)は方程式で表すことができなかった。伊藤の定理は微積分に確率論を導入することで、ブラウン運動 の軌跡や株式 等の金融商品 の価格変動の軌跡など、規則性のない曲線を方程式で表現することをはじめて可能にした。このため、将来のある時点における金融商品の理論上の価格を計算で算出することが可能となり、数学に留まらず経済学 、特に1990年代 に入って発達した金融工学 理論全般の進歩に多大な貢献があった。デリバティブ の一種であるオプション の価格評価式であるブラック-ショールズ方程式 の導出は伊藤の補題(伊藤のレンマ)が基礎となっており、同方程式の考案者としてノーベル経済学賞 を受賞したマイロン・ショールズ は清に会った際にわざわざ握手を求め伊藤の定理に敬意を表したという。