「円天」の源流:L&G会長の軌跡/上 大学中退、マルチの世界に
◇自動車部品や「魔法の石」次々
◇札束持ち歩き、市長待望論も
「仲間の薬屋がだまされたが、おれは信じなかったよ。この辺じゃあ、家をつぶしたものもおる」
L&G会長、波和二容疑者(75)のふるさと、三重県尾鷲市。地元の男性古老(86)は30年以上前、「麦飯石(ばくはんせき)」を売り歩いた波容疑者を覚えている。
「今回の円天商法? あのときの手口とちっとも変わらんな。地元じゃあ良く言う人はおらんかった」
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波容疑者は尾鷲市の海のそばで生まれた。6人兄弟の5番目。父の薬局は繁盛し、新築の家を手に入れた。大きな瓦ぶきの2階建てだった。
ところが、1944年12月、1200人以上が死亡・行方不明になった東南海地震が起き、津波で自宅が流された。古老が持っていた畑に小屋を建てた波一家は、ここから再出発する。父は10年後死亡し、母が生活を支えた。作業員を雇って炭焼きでもうける。山を買い、土地は転売した。
「勉強はできたが目立たない」が、少年時代の波容疑者評だ。しかし、凝り性な一面もあったという。小中学校の野球部で一緒だったという男性(76)は「バットの反発力が上がるからと肉屋からもらってきた牛骨で磨いたり、カメラ好きが高じて暗室まで作った」と振り返る。
進学したのは、日大芸術学部。映像好きが高じて映画監督になるのが夢だった。ところが理由は不明だが中退し地元に戻る。パチンコ店店長などを経て38歳でたどり着いたのが、日本でまだ知られていなかった「マルチ商法」だった。
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最初に扱ったのは、車の性能をアップさせるというエンジン出力増強装置「マーク2」。71年設立した自動車部品販売会社「APOジャパン」は、通常の営業をせず、「売り子」の会員をねずみ算式に増やした。後には当時の通産省から「効果がない」と判定されるこの装置を全国の約25万人が買った。しかし、セールスアルバイトの高校生が、借金苦で自殺したために、社会問題化して破綻(はたん)。つぎに目をつけたのが水道水をミネラルウオーターに変える「魔法の石」と宣伝した「麦飯石」だった。
麦飯石もマルチ商法で売れた。芸能人を呼んで商品を信用させた。地元では、100万円の札束を持ち歩き、「地元に帰って市長になれよ」との待望論も飛び出すほど羽振りがよかった。
そんな絶頂期だった78年、波容疑者は逮捕される。麦飯石を産出する山の共同所有を薬局店主らに持ちかけた詐欺容疑だった。しかし、波容疑者は約10年後、再び表舞台に登場することになる。L&Gの発足だった。
◇逮捕直前も持論を展開
波容疑者は5日午前5時半ごろ、東京都新宿区の自宅マンション前に姿を見せた。黒いジャンパーとジャージー姿。
早朝から詰めかけた約50人の報道陣には「よう眠れた」と笑みを浮かべた。
向かった先は近所にある行きつけの日本料理店。1000円の弁当とビール1杯を注文し、グラスを傾けながら「逮捕は向こうから来るんだからしょうがない。日本人は法律を守らないといけない」と余裕を見せた。
さらに、「詐欺師だったらこんなところで堂々としていない。破綻は認識していないし、いまも失敗だと思っていない」と持論を展開した。集めた巨額の資金についても「事業につぎ込んでいることは調べれば分かる」「申し訳ないという気持ちはない。冤罪(えんざい)だ」などと話した。
午前8時35分ごろ。制服の警察官が店の前で報道陣の規制を始めると、ゆっくりとおしぼりで顔をぬぐい、「ここまで来たら、もう何も言うことはないでしょ」と報道陣に話した。【町田徳丈】
◇真相解明に期待--被害対策弁護団
L&G被害対策弁護団が5日記者会見し、千葉肇弁護団長は「真相解明を進めてほしい」と警察当局に要望した。連絡先の電話番号は03・3511・6840か6841。
◇道東中心に会員2000人
L&Gを巡っては、道内でも5年前から被害の相談が寄せられていた。関係者によると、道内の会員数は約2000人。多くは老後の生活のための貯金や商売上の資金を投資して回収不能に陥っているという。
道消費者センターと札幌市消費者センターには04年度以降、約40件の相談があった。「母親が知人に誘われ900万円ぐらい出資した」「投資すれば高額配当を受けられると聞き、約3000万円を投資したが戻ってこない」といった内容。07年に新聞などでL&Gの不透明な実態が報道されてから急増した。
07年10月結成の「道東L&G被害対策弁護団」(釧路市)によると、L&Gは都市部に比べて経済的余裕のない道東などの住民を狙って会員を伸ばしてきた経緯がある。弁護団には現在、道東の被害者20人が計約8700万円の債権回収を依頼しており、被害はさらに増えるとみられる。
弁護団は今後、破産手続き中のL&Gから債権を回収できるよう裁判所に破産債権の届け出を進める。弁護団の一人は「いまだに波容疑者を崇拝している会員もいる。波容疑者は自分のしたことが間違いだったと早く認めるべきだ」と厳しく糾弾した。【和田浩幸、佐藤心哉】
毎日新聞 2009年2月6日 北海道朝刊
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20090206ddm041040143000c.html