「公共工事の品質確保の促進に関する法律」には、品質確保のために、発注者の責務として公共工事の品質確保の担い手が育成・確保されるための適正な利潤を確保することができるように予定価格を適正に定めることが、また、受注者としての責務として適正な額の請負代金を定める下請契約の締結、技術者・技能者の労働条件の改善等が明記されている。

 また、一般社団法人日本建設業連合会からは、下請取引の適正化を図るため受注者である元請企業(元請負人)自らが発注者と適正な請負契約を締結することが不可欠であるとの方針が示されている。このような状況を踏まえて、施工計画、施工設備及び積算分野の技術者として、以下の問いに答えよ。

(1)担い手の育成・確保のため、元請負人(受注者)が下請負人(協力会社)と契約を締結する場合、適正な利潤を確保することができる下請契約を締結するうえでの課題(留意点)を、多面的な観点から抽出し、その内容を観点とともに示せ。

(2)設問(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。

(3)前問(2)で示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。

 

1.下請契約を締結する上での課題

(1)いかに発注図書に現場条件を明示するか

 下請契約の適正な利潤を確保するには元請負契約で適正な利潤を確保できる契約となっていることが必須である。なぜなら、下請負契約は、元請負契約の業務の一部を担う契約であるため、元請負人がまず適正な利潤を得られないと下請負人に利潤が回ってこないためである。

しかし、元請負契約では、発注図書に現場条件が未記載・情報不足により、契約後これらへの対応業務を価格に反映なしに業務遂行せざるを得ないことがある。

 そこで、発注者から元請負人の観点から、いかに発注図書に現場条件を明示するかが課題である。

(2)実態に応じた応札額で応札するか

 下請負契約の前提となる元請負契約の契約額は、応札者の応札額によって決定される。しかし、元請負人が利潤を得られる応札額での応札としていないことが要因で、利潤不足の元請負契約となり、結果として、下請負契約も利潤不足となるケースがある。

 そこで、元請負人から発注者の観点から、元請負人の積算精度向上など、いかに実態に応じた応札額で応札するかが課題である。

(3)下請負人が適正な見積額を提示できるよう配慮

 下請負契約は、元請負人からの下請負見積依頼に基づいた下請負人が提示する見積額を根拠に締結する。

 しかし、元請負人からの見積もり条件の提示方法は、情報が不十分であったり、文書ではなく口頭のみであったりすることがあり、適切な見積ができていない。

 そこで、元請負人から下請負人の観点から、元請負人が下請負契約を締結する際に、見積条件の明示、見積徴収期間の確保、法定福利費の明示確認など、いかに下請負人が適正な見積額を提示できるよう配慮するかが課題である。

2.最重要課題と解決策

(1)最重要課題

 「発注図書の条件明示充実」が最重要課題である。

なぜなら、透明性の確保、競争の公正性の確保などの幅広い効果が見込まれるためである。

(2)解決策

 解決の方向性:応札者は現場条件が分からないため予備的に計上する費用を抑制することを目的に発注図書に現場条件を明示し、適正な額で応札が可能となる発注を推進する。

解決策1:補正等の設計変更方法明示

 近年、週休2日制、価格変動を考慮したスライド(全体、単品等)など制度が複雑化している。

契約後にこれらが変更設計の対象となるのか不透明であるため、応札者は安全側となるよう予備的に経費を計上しているケースがある。

 そこで、契約後の設計変更の対象の考え方も含め発注図書に明示し、応札者が応札額の精度を向上し適切な額で応札できるようにする。

解決策2:自然的・社会的条件の明示

 交通規制の可否、出水期・積雪・融雪期の中止基準、自然環境への配慮対策の有無などの施工制約が発注図書に情報が不足していることがある。

 これらの制約は発注前に判明していたがやむを得ず工法変更等の変更設計で対応しているケースもあり、応札額の妥当性が不十分である。

そこで、発注図書に自然的・社会的条件を施工明示し、これに基づいた発注図書とすることで、応札段階から施工現場で必要となる経費を適切に見積もり、応札者が適正な額で応札できようにする。

3.新たなに生じるリスクと対応策

 新たなリスクは解決策実行により予定価格の金額が従来よりも高くなり、この価格を参考にした標準工期が単年度で執行できない案件が生じる。

さらに、非出水期での施工工程を明らかにした場合も、単年度で執行できない案件が生じる。

 公共工事は原則単年度での執行が求められるため、発注の規模を小さくするなどの対応により現場施工が非効率な分割発注となることが想定される。

 リスク対応は、単年度発注回避制度を活用する。具体策は複数年国債などの債務負担行為の積極的な活用する。さらに、工期と契約期間を翌年度にまたがる権限を得られる翌債制度活用など速やかな繰越手続きを行う。この対応により非効率な分割発注を抑制する。

 

■自己評価

この問題は、適正な利潤を確保することができる下請契約がテーマです。

2章以降の解答は、R3のⅢー2と一緒にしています。

 

最近、工期の設定が話題になっているので、できれば、価格より工期がポイントにした方がよいかもしれません。

その場合、構成は基本一緒で、リスク対応策を解決策にもってくればよいと思われます。