近年の気候変動の影響により自然災害が激甚化・頻発化している状況下において、地球温暖化対策が喫緊の課題となっている。気候変動問題が社会経済活動の持続可能性を脅かすリスクを回避するためには、施工計画、施工設備及び積算分野においても、現場の安全と環境に配慮し、工期と予算の範囲内で良質な構造物を整備することに加え、グリーン社会の実現に向けたカーボンニュートラルへの取組が不可欠となっている。

 このような状況を踏まえ、以下の問いに答えよ。

(1)構造物の新たな整備から供用後までの各過程におけるカーボンニュートラルへの取組を推進するにあたり、技術者としての立場で多面的な観点から3つ課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。

(2)前問(1)で示した課題のうち、最も重要と考える課題を一つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を、専門技術を交えて示せ。

(3)前問(2)で示した解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。

 

■回答

1.カーボンニュートラル推進にあたっての課題

(1)セメント製造時のCO2発生抑制

 建設施工・維持管理段階において、カーボンニュートラルに取り組んでいるものの、材料にコンクリートを使用し、多くのCO2を排出していることが問題である。これは、コンクリートの主材料がセメントであり、製造時に大量のCO2を排出していることが要因である。

 そこで、材料の観点から、いかにセメント製造時のCO2発生を抑制させるかが課題である。

(2)低コスト化の推進

 インフラ整備では、構造物の品質確保を前提として、経済性を考慮しつつ、環境配慮を行う必要がある。

しかし、構造物の建設施工段階で、カーボンニュートラル実現に貢献しようとすると、コストが従来以上にかかることが問題となっている。

 そこで、経済性の観点から、カーボンニュートラルに安価に取り組めるよう、技術開発等、いかに低コスト化を図るかが課題である。

(3)建設機械の脱炭素化

建設施工・維持管理段階では、化石燃料を消費する動力源の建設重機を使用し、多くCO2を排出している。

近年は化石燃料を消費しないGX建設機械(電動・水素・バイオマス等を動電力にした建設機械)を導入し、CO2排出を抑制させるため油圧ショベルやホイールローダー等のGX建設機械の認定が進み始めたが、現状はGX建設機械の認定機種は多くない。

そこで、機械の観点から、GX建設機械の認定拡大等、いかに建設機械の脱炭素化を図るかが課題である。

2.最重要課題と解決策

(1)最重要課題

 「セメント製造時のCO2排出抑制」が最重要課題である。理由はこの課題が最も即効性が高く、多くの現場で採用できるためである。

(2)解決策

 解決の方向性として、新設・改築・維持管理等に使用するセメントについて、コンクリート中の割合や使用頻度をすることでCO2発生を抑制する。

解決策1:代替材料の積極的採用

 一般的なコンクリートは、セメント、水、骨材(砕石、砂利等)から構成されている。セメントは水と反応してコンクリートを固める重要な役割を果たすものであるが、代替材料を利用することで、コンクリート中のセメント量を削減できる。 

そのため、製鉄所や火力発電所で生じる産業廃棄物(高炉スラグや石灰灰など)をセメントの代替材料として採用し、CO2排出を抑制する。

解決策2:コンクリート構造物の長寿命化

 コンクリート構造物は、基本的には50年程度の耐久性がある。しかし、施工時の品質管理が不十分な場合や、維持管理が不十分な場合、短いスパンでの改築が必要となり、コンクリートを使用し、大量のセメントを製造する必要が生じる。

そこで、コンクリート構造物の長寿命化を目的に、高強度コンクリートの使用や品質管理の徹底による初期ひび割れ等の初期不良の削減、予防保全の導入による長寿命化を図る。

この解決策は、長期的に考えるとセメントの使用頻度を削減し、CO2排出削減の効果が期待できる。

3.新たなリスクとリスクへの対応

(1)新たなリスク

 解決策の実行によりセメント製造時のCO2排出削減でき、これに伴い関連技術のニーズが高まり、様々な代替材料の採用、様々な長寿命化の取組が採用される。

しかし、新材料(代替材料)は長年の実績がないことから、十分な安全性・耐久性の十分な検証や、点検結果の妥当性がないまま、解決策を実行してしまうとインフラの強度不足等によりセメントによる追加対策や最悪の場合インフラの作り直しが必要となる。

(2)リスクへの対応

 解決策の実行にあたっては、これらの実行後のリスクも念頭においたうえで、事前に十分な安全性・耐久性の検証がされた技術・材料を採用する。

また、業界で統一的に行えるよう国などにおいて、これらの研究、検証、認定制度創設などに取り組み、品質確保を徹底する。          以上

 

■自己評価

以前、掲載していましたが、「2つの解決策について、それぞれが方向性の異なるものを挙げている。それが成立ように、無理して、最重要課題を抽出している。問題の要因の深堀が不足している」といった指摘をいただいたので、この点を修正しました。

具体的には、材料に絞った課題にしました。

問題の要因の深堀…。勉強になります。