本護岸整備工事は、大都市郊外の住宅密集地を流れる二級河川に対して必要な計画高水流量を安全に流下させるための河川整備計画の一部である。模式図のように、非出水期に延長70m分の既設護岸設備を撤去し、新たに護岸整備(直径900mmの鋼管矢板、高さ7mの場所打もたれ式擁壁)を新設し、河道を拡幅し河床を設計河床高まで掘下げる工事である。一般道から河川区域へのアクセスは確保されているものとして、本工事の担当責任者の立場で書きの内容について記述せよ。ただし、この河川には水利権・漁業権は設定されておらず、船交通もなく、河川水の活用は防災面での消防水利のみである。
(1)本工事の特性を踏まえて、仮設計画を立案するうえで検討すべき事項を2つ挙げ、技術的側面からその内容を説明せよ。
(2)本工事の工程遅延のリスクを1つ挙げ、PDCAサイクルにおける計画段階で考慮すべき事項、検証段階での具体的方策、及び是正段階での具体的方策についてそれぞれ述べよ。
(3)本工事の施工中に重機の油圧シリンダーが破損し、漏れた油が河川に流出した。この対応に当たり、本工事の担当責任者として発揮すべきリーダーシップについて、複数の利害関係者を列記し、それぞれの具体的調整内容について述べよ。
■回答
1.仮設計画を立案するうえで検討すべき事項
(1)住宅への影響緩和対策
本工事は、大都市郊外の住宅密集地を流れる二級河川を対象とする特性がある。
仮設計画として、直径900mmの鋼管矢板を設置する必要があるが、この際、振動・騒音の発生が懸念される。そこで、打設方法について、バイブロハンマーを用いるのか、静的圧入工法を用いるのか、または防音壁設置なども併用するのかなどを検討する。
(2)仮設ヤードの妥当性
本工事は、河川区域に隣接し、民家が存在するなど、作業ヤードが限られている特性がある。
仮設計画として、直径900mmの鋼管矢板を設置する必要があるが、設置を行う重機の設置スペースや、材料等の保管場所が必要である。そこで、仮設ヤードが重機荷重等を支持できる地盤強度か、スペースは十分かを検討する必要がある。
2.工程遅延リスクと各段階での具体的方策
(1)工程遅延リスク
工事に伴う騒音・振動等への周辺住民からの苦情対応により、工程遅延のリスクがある。
(2)計画段階で考慮すべき事項
・騒音・振動が出にくい工法を採用
・騒音・振動の影響が少ない時間帯での施工
・騒音・振動に配慮している旨の事前周知
(3)検証段階での具体的方策
鋼管矢板設置を開始した段階、施工の進捗段階で、計測機械を用い、騒音、振動を数値で計測する。
騒音・振動の専門家、発注者、施工機械メーカーの担当者へのヒアリングによる外部評価の実施。
(4)是正段階での具体的方策
検証結果で、是正を要す場合は、遮音壁の設置や、工法の見直し等を実施する。
3.河川への油流出事象に対するリーダーシップ
(1)利害関係者とその要求:
消防水利関係者、対策費用支出責任者が挙げられる。
➀消防水利関係者:早急に全ての油を取り除き、消防水利機能確保を要求。
②対策費用支出責任者:対策コストをできるだけ抑制する要求。
(2)相反要求に対する中庸案
上記要求は相反関係にあるが、公益確保を最優先に両者の要求に対する中庸案を提案する。
具体的にはオイルフェンスの設置、吸着マットの設置により、安価で、効果的に油を吸い取る。
対策の事前、中間、事後に、利害関係者と協議し、合意を得て実行する。
さらに、再発防止に向け、詳細な原因を究明し、原因に基づく対策を実行する。