我が国の水道事業を取り巻く事業環境は、人口減少に伴う給水収益の減少、施設・カンロの老朽化等に伴い、急速に厳しさを増している。このため、市町村の区域を越えた広域的な水道事業者間の多様な連携(広域連携)などによって今後の事業基盤を確立することも効果的である。

 一方で、料金格差等の課題があるため、短期的には経営統合の実現が困難な地域も多くみられる。このような地域における広域連携方策を検討する技術者として、以下の問いに答えよ。

 

(1)技術者としての立場で多面的な観点から広域連携により解決できる課題を3つ抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。

(2)抽出した課題のうちあなたが最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。

(3)提案した解決策を実行したとしても新たに生じうるリスクとそれへの対応について、中長期的な視点も含めて考えを示せ。

 

■回答

1.広域連携により解決できる課題

(1)体制の強化(ヒトの観点)

水道事業の運営には、専門知識とノウハウを有する職員が必要である。しかし、職員数は、30年前に比べ、約3割減少するなど減少傾向であり、特に、中小規模の水道事業では団塊世代の大量退職の影響も大きく技術継承が十分に行えていない。そこで、近隣の技術を保有する水道事業者との管理の一体化や、合同勉強会の実施、技術を保有する事業者への第3者委託の実施などによる体制の強化が課題である。

(2)施設整備の効率性向上(モノの観点)

 水道施設は、高度経済成長期に集中して整備されてきた。これらの施設が法定耐用年数を超過するなど老朽化(平成30年度末時点で管路経年化率17.6%)している。しかし、管路の更新率は0.68%と低いため、ますます老朽化が進行している。

 水道施設計画は、基本的に市町村単位で計画され、人口増加を前提に施設配置(配水区域含む)されているものもある。しかし、市町村の区域を超えたより広域的な観点では必ずしも最適な配置となっていない。

 このため、より効率的な施設整備・再編などの手法を推進するなど施設整備の効率性向上が課題である。

(3)災害対応力強化(非常時の観点)

 東日本大震災では、最大で256.7万戸の断水が発生し、解消に約5か月を要している。

 応急給水や応急復旧活動には、給水車や人員等が多く必要となり、単独の事業者では不足する場合が多い。

 そのため、予め災害支援相互協定の締結、合同訓練の実施等、広域連携による災害対応力の強化が課題である。

2.最重要課題と解決策

(1)最重要課題

 「施設整備の効率性向上」が最重要課題である。

(2)解決策

①施設の共同保有

 取水施設、浄水施設、配水池等の基幹施設を複数の事業者で共同保有する。

市町村の区域を越えた視点で、施設の統廃合を行うことで、末端の施設を廃止することができる。

この際、予備力を考慮したうえで、将来の水需要を踏まえた規模にダウンサイジングを実施することで、更新費用だけでなく、維持管理費用も低減できる。

②相互連絡管の整備

近隣の事業者の配水区域と相互連絡管を整備することで、配水区域を連結する。

その結果、単独の市町村内で計画を検討した場合、必要であった新たな施設整備や災害リスクが不要となったり、解消したりする効果がある。

3.新たに生じるリスクとそれへの対策

(1)施設の共同保有

 広域的な視点での施設の統廃合により効率的な施設整備が可能となる。

一方で、一つの施設がまかなう配水区域が広くなり、漏水等への対応の遅れや、断水等の影響が広範囲となるリスクがある。

 この対策として、CPS/IoT活用を推進する。

 先端技術を活用することで、漏水の早期発見や高度な配水運用が可能となり、高度な維持管理が可能となる。中長期的な視点では、災害対応を含むシームレスなデータ活用により、災害対応力の強化や、ビッグデータを収集・解析し、より高度な維持管理を実現することで施設整備の効率性を向上させる。

(2)相互連絡管の整備

 相互連絡管の整備により効率的な施設整備が可能となる。

一方で、施設整備には莫大な費用を要する。経済性を優先し、脆弱な施設を整備すれば、安全性が損なわれる。

この対策として、複数の選択肢を検討し、総合的な評価を行ったうえで、最適な対策を実行する。さらに、日頃から需要者とコミュニケーションを図り、必要な値上げなど資金の確保を行うことで、事業の持続性を高める。中長期的な視点では、PDCAサイクルにより、業務を評価分析し、適宜改善を図る。

 

■技術士会の評価

A

 

■自己評価

最後の方がいまいちですね。

相互連絡管は運用でもめるリスクがあるので、相互のルールを設けるとかの方がよかったと反省です。