日本の将来人口は、減少していくことが予想されている。この人口減少により上下水道事業では、将来水需要の減少に伴う料金収入の減少や職員数の減少が見込まれている。一方、多くの施設は、老朽化が進行しており、更新時期を迎えつつある。このため、今後も安定して事業を継続していくためには、厳しい財政状況の下で執行体制の省力化を図りながら事業を進められるように上下水道事業の基盤強化を着実に進めていくことが求められている。

(1)上下水道事業に共通する事業基盤強化に関して、技術者としての立場で多面的な観点から3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。

(2)抽出した課題のうち最も重要と考える上下水道に共通する課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。

(3)解決策に共通して生じうる新たなリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。

(4)業務遂行において必要な要件を技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ。

 

■回答

1.事業基盤強化に関する課題

(1)人材育成の強化(ヒトの観点)

 今後も安定して事業を継続していくには、専門知識とノウハウを有する職員が必要である。

 しかし、職員数は減少傾向で、団塊世代の大量退職の影響も多く、技術継承が難しい状況にある。

 労働人口の低下等の影響もあり、今後も職員の大幅な増加は難しい状況であるため、OJTに加え、OFF―JTを組合せた体系的な教育の実施による人材育成の強化が課題である。

(2)施設の老朽化対策の推進(モノの観点)

 上下水道施設は、高度経済成長期に集中的に整備されてきた。これらの施設が法定耐用年数を超過するなど老朽化している。また、更新率も低いため、ますます老朽化が進行している。さらに、管路の老朽化に伴い道路陥没等の二次災害も発生している。このため、より効率的な施設更新手法の推進などによる施設の老朽化対策の推進が課題である。

(3)財源確保の強化(カネの観点)

 事業を運営するには、その資金が必要である。

 上下水道事業は、地方公営企業法に基づき、原則独立採算制である。人口減少傾向に伴い、水需要は減少傾向であり、料金収入も減少傾向であり、厳しい経営環境にある。このため、料金体系の見直しや、料金の値上げなどによる資金確保の強化が課題である。

2.最重要課題と解決策

(1)最重要課題

 「施設の老朽化対策の強化」が最重要課題である。

(2)解決策

①アセット(ストック)マネジメントの推進

 管理する全ての施設の健全度等の現状を把握し、将来の更新需要予測、財政収支予測を行うアセット(ストック)マネジメントが有効である。

 この際、施設の健全度や重要度を踏まえ、事業の優先度を決定することで、事業の効率性が高くなる。

 また、施設更新にあたっては、長寿命化対策、ダウンサイジングを検討したうえで、必要な値上げを実施し、資金を確保する。

この結果、事業費の平準化、財源の裏付け、ライフサイクルコストの削減等が可能となる。

②広域連携の推進

 上下水道事業の計画は、市町村単位で基本的に行われている。その結果、広域的な視点で見た場合、必ずしも最適な配置(配水区域を含む)となっていない。

 人口減少を前提にしたうえで、市町村の区域を超えた広域的な視点で、施設の統廃合を行うことで効率的な施設整備が可能となる。また、予備力を考慮したうえで、ダウンサイジングを実施することで、更新費用だけでなく、維持管理費も削減できることから、施設の老朽化対策を効率的に行うことが可能となる。

3.新たなリスクとそれへの対策

 解決策は、施設情報をもとに計画・実行する。

 点検の不適切等により、施設情報が不適切だった場合、本来、早急に対策が必要な施設を後回しにして、事故を発生させてしまうリスクがある。

 対策として、インフラメンテナンス2.0を推進する。

 まず、多くが紙媒体の施設台帳を電子化する。

 次に、インフラデータプラットフォームと連携し、他の水道事業者の情報も参照し、レベルを高める。次に、災害業務を含むシームレスなデータ活用型の管理に移行し、災害対応を強化する。情報をビッグデータとして、収取・解析し、さらなる維持管理の高度化を図り、段階的に進め、施設情報の精度を高める。

4.業務遂行に必要な要件

(1)技術者倫理の観点

 公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮する。

 例えば、予算不足、人材不足の状況下においても、関係法令で求められている適切な資産管理については、優先して取り組み、事故を未然に防ぐ。

(2)社会の持続性の確保

 地球環境の保全等、次世代にわたる社会の持続性確保に努める。

 例えば、施設の更新工事には、重機を使用することで、二酸化炭素を排出するが、排出量を抑制できるよう排出対策型の重機を優先して使用する。

 

■技術士会の評価

A

 

■自己評価

結構いいと思います。とても無難な課題の挙げ方になっていると思います。

ただし、リスク対応がリスクに直結していないので、そこが減点されていると思います。

この問題のテーマは、事業基盤強化で、普遍的なものなので、書きやすいです。

多くの受験生がこちらの問題を選択していると思います。