朝の小田急線。
代々木上原で乗り換えた急行新宿行きは、小さくたたんだ新聞が、かろうじて読めるくらいの混雑。
左側の、OL風(古っ!)女性のシャカシャカ音に少しウンザリしながら、ボクは携帯で、ブログにコメントを書き込んでいました。
終点の新宿駅に近付き、車内の緊張感が、少し増しました。
でもボクは、とっさに思い付いた粋なコメントにすっかり夢中で、降りる準備をほったらかしていました。
体も心も。
「間もなく、終点、新宿でございます。お忘れもの…」
車内アナウンスが流れます。
でも、ボクは携帯を目の前で握り締めたまま、ひたすら親指でキーを叩いています。
電車がホームに滑り込み、一瞬の間をおいて、ボクの正面のドアが開きました。
降車の人波に身を任せたボクは、それでも携帯から目を離しませんでした。
トンッ
携帯を持つ左手が、なにかに当たりました。
いや、当たったのかどうかも分かりません。
が、携帯がフワッとボクの手を離れました。
一瞬浮いて、まばたきする間もなく、携帯は落下していきます。
コマネズミのように、クルクル回転しながら落下していきます。
ヤバイ!落ちたら踏まれる!
無惨にひしゃげた紫のスライド式携帯W52Tの姿が、脳裏に浮かびます。
ボクはとっさに、左手を出しました。
携帯を救うために。
彼の運命を変えるために。
そしてボクの左手は、携帯に触れました。
ああ、よかった。
普段から身体を動かしててよかった。
フットサルやっててよかった。
等々力で大声出しててよかった…
おかげで、落ちて行く携帯に手が届いたよ。
たぶん関係ないけど。
衝撃から数えて、その間わずか1.3秒。(当社比)
携帯は救われた…
かに見えましたが、そんなに甘くはありません。
なにしろ、運動音痴と方向音痴を足して2をかけると進☆成Ωが生まれるほどの鈍さです。
加えて、利き手と逆の左手。
ちゃんと掴めるわけがありません。
手の甲で踊りながら逃げる携帯。
追いかけるボクの左手(甲)。
追いかけっこの先にあったのは…
若いお兄さんの胸でした。
携帯は、空中に止まっていました。
お兄さんの胸と、ボクの左手にはさまれて。
携帯は救われたのです!
しかし、ホッとしたのも束の間。
次の問題が発生しました。
そうです。この手をどけて、携帯を回収しなくてはなりません。
もし、コワイお兄さんだったらどうしよう。
「す、すんません!」とボク。
おそるおそるお兄さんの顔を見上げると…
そこには、うなずくお兄さんの笑顔がありました。
ニッコリ微笑むお兄さん。
えくぼが素敵です。
ああ、よかった。いい人だった。
そしてボクは、無事に携帯を回収し、もういちどお兄さんにお礼の会釈をして、電車から降りました。
この、一期一会に感謝して…。
これで、話はお終いです。
携帯を救ってくれたお兄さん、本当にありがとう。
おかげで、この日記を書くことができました。(ただいま長距離移動中です)
感謝の思いを伝えたくて、書きました。
伝わればいいなあ。
それにしても幸いだったのは、相手が男性だったということ。
もし、相手が女性だったら…
図1【手シ携帯シ胸♀】
となっていたわけですから、よくてビンタ、悪ければ警察で事情聴取です。
ここも、神様に感謝しなければなりませんね。
え?男の胸で嬉しいんじゃないかって?
とんでもなーい。
誰だっていい、ってわけじゃないんですよ。
皆さんもそうでしょ?
それに、ユースケに怒られるし…(萌想中)
ま、チョッピリいい男でしたけどね。
ってオイ!
ボクはノーマルですってば!
(完)