真夏なのにコートを着て出かける

80代後半の女性。

 

「何しているの!そんな恰好で!」


びっくりして、

思わず声をかけた

という友人の話を聴いた。


 

友人は、震えながら

私に息巻いた。

 

 家族は何をしているんだ。

あんなみっともない格好をさせて。

 ほったらかしじゃないか。

 同居の息子は何をしているんだ。

誰も彼女をみてやってないんじゃないのか。

   酷すぎる。

あんなに立派に地域をまとめていた 

 聡明だったあの人が!

 悔しくてとても耐えられない。

           なんとかしてやらなければ!


聴けば、

彼女は近所のスーパーへ

お金を持たずに行くことが

あるらしい。


だけど、店員は心得ていて、

特に問題にはならないそうだ。

 

ある時、彼女は

「口紅を買うの」と言って

駅に向かった。

その後無事に帰ってきていたから、

事なきだったんだろう。


まあ、真相は分からない。 


だけど、普通にその後も

別の友人とその口紅の話を

していたそうだ。


おしゃれにこだわりがあるんだなあ。


話を聴いているうちに、突然

するんと腑に落ち始めた。


彼女は好きなところへ、

好きな恰好で、

好きな方法で行く。


それだけは確かだ。

 

ひょっとすると、


家族はほったらかしじゃなく

何と言われても、

コートを着て出かけたいあの人を

邪魔しないだけかもしれない。

 

そういえば、


「何しているの!そんな恰好で!」

そういわれた彼女は、

ただ笑って


「今からバスに乗って

 駅にいくのよ」


とだけ言ったそうだ。

 

彼女は好きなところへ、

好きな恰好で、

好きな方法で行く。

 

自分で選んだことをしているだけ。


実にかっこいいではないか。

ふと、そう思った。