都合の悪い事だけ忘れてしまえ~(笑)
「忘却の声 上下」 アリス・ラプラント著
内容(「BOOK」データベースより)
わたしはジェニファー。わたしは六十四歳。
わたしは認知症。ノートにその日にあった出来事を
書いている。ある日、貼ってある新聞の切り抜きを
見つけた。「アマンダ・オトゥール(75)が不審死。
右手の指が四本切断されていた」。アマンダは親友
だった。彼女を殺した覚えはない。
でも警察が会いにきたし、ノートからは事件当日の
ページが切り取られている―。親友の殺害容疑を
かけられた、認知症を患う女性。彼女の独白とノート
に書かれた文章、介護人や娘たちが記した伝言の
断片で綴られた衝撃作!
・・と、この作品はそんな無責任な話ではない。
敏腕の整形外科医だったのに認知症になり、
仕事をやめ、次第に彼女のアイデンティティーは
失われてゆく。
鋭敏なだけにこの周囲の扱いと、機能の低下は
なんと残酷に思えることだろう。
その上、覚えておかなければいけない恐ろしい
事実は、彼女自身がもう思い出せないのだ。
幸せ?そういわれたらそうかもしれないが、
もしかしたら、騙されているかもしれないという
疑心暗鬼がある限り、そんなものは訪れない。
ワタシだったら、そうなる前に死んじゃうかも。
ジブンがわからないことをいいことにして
周りにウソを吐かれるなんて、まっぴらだ。
この作品の凄い所は、ミステリーの部分を
認知症患者から見た日常や狂気の中だけで
描いている事。
みごとだ。
次第に見えてくる、表面だけでは見えない家族の
確執。歪んだ友情。
彼女の思考や言葉から、読者たちはだんだん
真実に近づいてゆく。
一番嘘つきな奴は誰か?
忘却の中には誰にも気づいてもらえないけど、
不器用なジェニファーの愛があった。
最後には周り全部が悪意にしか見えなくなる・・・
毎日が夢か現実か境界がなくなるような感じかな?