こんばんは、Tataです。
これは、高校を卒業した翌日の話。
まだ「卒業後の人生」というものが、現実感を持たずに宙ぶらりんだった頃の出来事です。
髪は?
そう、あの頃とは違い、ちゃんと生えそろっていました。
出家期間は終わり、教祖は俗世に戻っていたわけです。
そんな日、突然電話が鳴りました。
相手は、中学の同級生だった女子。顔はというとかわいいほうの容姿の女子。
「Tataくん、卒業したら地元離れるんでしょ?最後に、会えないかな?」
正直に言うと、困惑しました。
別に仲が良かったわけでもない。
中学時代、この子に限らず女子とろくに話した記憶もない。
高校ではなぜか「モテてる側」扱いされていたものの、女子と付き合えっても長続きしない。面白い話ができるわけでもない。
共感力?どこに落としてきたんでしょうか。
まあ、いいか。そんな軽いノリで、会うことにしました。
ちなみに言うと、ちょっとだけ妄想は膨らんでいました。
待ち合わせは最寄り駅。
会うなり彼女は言います。
「あそこのお店でケーキ食べたい」
喫茶店。
窓際の四人掛け。
ケーキを食べながら、取り留めのない会話。
特別、盛り上がったわけでもない。
告白の気配もない。
「好きだったから最後に会う」
そういう雰囲気でもなさそう。
(妙だな)
そう思い始めた、10分後くらい。
突然、大人の女性が二人、合流してきました。
「……誰?」
気づいたら、席替え。
自分は奥。
三方向を女性に囲まれる配置。
そして始まる、見事なまでの急転直下。
宗教の勧誘です。
幸運を呼ぶ腕輪。
浄化の水晶。
人生が好転するお札。
トークは流れるようで、隙がない。
帰ろうとすると止められる。反論しようとすると、先回りされる。
(あ、これ詰んだな)
さらに追い打ち。
「このあと、車で30分くらいの本部に行こうよ」
完全にアウト。警報レベル最大。
どうする、Tata。ここで使えるのは何だ?
そう、「教祖力」を最大限に使う「でまかせ大作戦」、発動!
「実は僕、ある宗教の教祖なんです」
意外な言葉に三人の視線が集まる。
「小さい教団ですけど、信者が30人ほどいて。教義はですね......あれやこれや、方針はですね......あれやこれや」
適当にそれっぽい話を並べ、そして、核心を突きました。
「あなたたちの教祖が、他の教団に入りますって言ったら、信者としてどうします?」
沈黙。
さっきまで饒舌だった二人が、マニュアルのページを必死にめくるような顔で黙り込む。
想定外。その空気が、はっきり伝わってきました。
「だから僕を勧誘するのは無理です。時間の無駄ですよ」
そう言うと、ようやく解放。
たぶん、完璧な問答集があったのでしょう。
でもそこには、「教祖を名乗る高校卒業生」への対処法は載っていなかった。
こうして教祖は、宗教勧誘を宗教論で撃退するという、謎スキルを発揮したのでした。
それ以来です。
女子に「会わない?」と誘われるたび、脳内に警報が鳴るようになったのは。
これは罠だ。
それにしても、なぜ自分だったのか。
本気で「こいつ、いける」と思われたのか。
まあ、高校生にしてはバイトしていて、小金は持っていましたけどね。
こうしてまた一つ、教祖の伝説が増えました。
彼女にはフラれ、童貞のまま、宗教勧誘からは無事生還。
<教祖とは>
信仰を集める存在ではない。
想定外を突きつけ、相手を黙らせる存在である。
そして今日もまた、教祖は誰にも知られぬまま、静かに俗世を歩いていくのです。