家は、神道なのに…
ミッションスクールへ、入学させられた。

当時は、まだ、職業を持つ女性は少なく…
女子としては…
「見合いの釣書」に書くのに、受けがいい大学へのエスカレーターだったからだろう。

ミッションスクールの一日は…
祈りで始まり、祈りで終わる。
校内を、シスターと呼ばれる修道女が、行き来する。

洗礼を受けたのは、二年前だが…
私はの信仰の原点は、すでに、そこから始まっていた。

思春期に入り…
「命とは、なんだろう?」
「人は、何のために生きるんだろう?」
「死後の世界はあるのかな?」
そんな疑問を持つようになった。

ある時…
臨死体験をした人達のリポートを読んだ。
「年齢」「性別」「宗教」「人種」
全て違うのに…
皆、同じような体験をしている事に驚いた。

「まるでTVのスイッチをバチンと切るように、何もかも、無になるのが、死だとしたら…生きる事自体が虚しい」
そんな思いが、消え去って、少しほっとした。

けれど…
「死」も「死後の世界」も、
そう真剣に考える事のないテーマだった。

そう…
自分自身が「末期癌」となるまでは…

カトリック教会において…
「洗礼」を、すぐに簡単に受ける事は、できない。
一般的には…
一年間、聖書等の勉強に通い…
代母さんについてもらい…
神父さんの面接をパスして…
やっと、その日を迎える。

私は…
教会に通う日々の中で…
「全ての人が死へと、向かう。けれど、性格も、能力も、運命も、一人一人違う。それは…神様から与えられた使命が、それぞれにあるからだ」
そんなふうに、思うようになった。
「だから…生きる事は、長さじゃない。神様が望むように、懸命に生きて行けば、死は怖くない」
そう、思えるようになった。


だけど…

いくら、誠実に生きても…
次々と試練は襲う。

片目は、見えなくなり…
片足は、麻痺した。

精神的進歩のない私は…
また、神様に喰ってかかる。
「神様、なぜですか?」

「なぜ私ばかり?」と、ひがみ…
健康な人を妬む。
神に、背を向け、絶望する。

醜い姿だ。

そして…

ハッと気づいた。
「洗礼を受け、物事がわかってきたようになったと自負する、己の傲慢さに…」

「子育てを終え、使命を果たしたような気分になっていた、傲慢さに…」


一昨日…
通院から帰宅すると、
△男が、先に帰っていた。
手紙とおやつを用意してあったが…
ソファーの上で、膝を抱え、寂しそうにしている。

「ただいま!」
私の声に、立ち上がり…
私の顔を見る、△男の瞳は…
深く澄んでいる。
その笑顔の中に、愛が溢れる。


そうだ。
きっと、これが…
神様からの答えだ。

不自由に耐えて…
今、自分にできる事をする。

自分の楽しみを追うのではなく…
愛する人の幸せを喜ぶ。


「不自由な私のために、△男は、いろいろ手伝ってくれているのに…私は、自分の不運ばかりを見つめていたよ」

「こんな、お母さんでゴメン。でも…一日でも長く、あなたのそばにいるよ」









裕子