リンパの廓清手術から1年後…

腰痛に悩まされるようになった。


よく感じる極普通の腰痛で、がまんできないほどじゃないケド…

「骨転移」が心配で…

一年後の定期健診で、レントゲンを撮ってもらった。


レントゲンでは、異常ナシだった。


年が明け…2013年1月…

一年間の予定だった「分子標的治療薬」による「抗癌剤治療」が終わった。


4月…

腰痛は、日に日に激しくなる一方だったが…


「何でもスグ癌とむすびつけるんじゃない!」

「そんな弱気でどうする!」


と、自分に言い聞かせていた。


3ケ月に一度「ホルモン療法」の飲み薬を処方してもらいに通院していた。

血液検査を受け…

「じゃあ、南さん、次は3ケ月後で…」

主治医から、そう言われた翌日…


電話が鳴った。

ナンバーディスプレイに表示された「○○病院」の文字を見て、血の気が引いた。


「血液検査の結果について、早くお知らせしなくちゃいけない事があるので、明日、病院まで来て下さい」


その晩は、まんじりともせず…

翌日、大きな病院の待合室の片隅に腰掛ける私は、怯えるモルモットのようだった。


「名前が呼ばれて、診察室のドアを開けたら…私は、もう、きっと…今のこの世界に戻る事はないんだろう…?」



転移巣は腸骨で…直径7センチの腫瘍は骨を食い破り、外へはみ出していた。


「骨シンチグラフィー」を受け「転移巣」が、その一か所のみとわかったので「放射線治療」を受ける事になった。

合わせて「分子標的治療薬」(ハーセプチン)と「ゾメタ」の投与も開始する事になった。


「遠隔転移」「ステージ4」

それが、どういう意味なのか、よくわかっていた。


遠く振り払ったと思っていた「死神」…

首筋に冷たい息を吹きかけられ、振り向いたら…

「死神」の顔は、スグ目の前にあった。

「孤独」「恐怖」「疎外感」

それが…その時、感じていた全てだった。


「私が、こんなにつらい状況にあるのに…行きかう人は、みんな幸せそう」

「私は、死ぬかもしれないのに…みんな、つまらない事で悩んでいる」

「私は、もう、未来を描けないのに…みんなは、自殺したいとか、贅沢ばかり言っている」


これまで、感じた事がないリアリティーで「死」が迫ってきた。

「死ぬのが怖い!」それが…その時の正直な気持ちだった。


自分という存在が消えてしまうという事が、どういう事なのかわからない…?


「死んだらどうなるの…?」

誰も答えてくれない。

だって…誰も、死んだ事がないから…


結婚してから…

試練の連続だった。


息子の「自閉症」

「借金苦」

「潰瘍性大腸炎」

「乳癌」

のたうち回るようにして、つらい出来事から立ち上がる度、また、どん底へと突き飛ばされる。


「今、頑張れば、そのうち、きっと、いい事がある!」

そんなふうに、自分を励ましてきた。


でも…

もう、いい事なんてない!

「未来」を描く権利さえ、もう、ないんだよ…



家族はみんな、思いやりにあふれ、協力的だった。

でも…だから、よけいに…

同じように、イヤもしかしたら、私以上につらい思いをしている家族に、自分のつらい思いを吐き出せなかった。


私が泣いたりしたら…自閉症の△男へのダメージは大きい。

×男は一浪が決まり、これまで以上に頑張らなきゃ行けないんだし…

○子は、一人暮らしを始めたばかりで…心配かけたくない!



夜、布団に入り、眠ろうとすると…

息が苦しくなる。

このまま眠ってしまったら…

夜の闇に飲み込まれて、二度と目が覚めないんじゃないか…?

もう、家族と会えなくなってしまうんじゃないか…?

「眠る事」と「死」が重なって思えた。


「不安でたまらない時は、いつでも、起こしていいよ!」

夫が、そう言ってくれた。


幾度か、夜中に不安な思いを夫にぶつけた。


「死ぬのが怖い!」

と、泣き続ける私の悲しみを穿つように、夫の涙がこぼれ落ちる。


このままでは…

私より先に、夫がまいってしまう。

もう、これ以上、夫を苦しめたくない。


もう、泣かない!

家族の前で、私は泣かない!





続きは、また、明日…





チューリップ赤裕子