夏の終わり…一年前のちょうど今頃を思い出すと、ズンと胸の奥が重くなる。


宅浪二年目の次男の落ち込みぶりに、かける言葉も見つからず…ウロウロしていた気持ちがよみがえる。

親なんて…子が大きくなればなるほど、してやれる事は、どんどん少なくなる。

唯一が「金を出してやる事」なんだろうが…我が家の場合、望むべくもない。


「夏を制するものが、受験を制する」

よくそう言われるが…


次男は、どんよりとした目つきで

「人は何のために生きるのか?」

そんな本ばかり読んでいた。

一浪は、想定範囲内だった。

でも、読みが甘かったのだろう。

一浪の夏に、私は緊急入院し…次男は数か月間、自閉症の兄のガイヘル、家事をこなしていた。

でも、その事を、二浪の原因にした事はない。

競っていた仲間は…「イチョウ」や「ツバメ」にいざなわれ…

「でも…数学はオレの方ができたんだけどナ…」

けして、怠けてきたわけではない。

「ナゼ?」

自信をなくし、悔しさ、取り残されたような思いの中で、もがいていたのだろう。


そんな夏の終わり…

いつものように散歩から帰ってきた次男が

「大変だ!駐車場の茂みの奥に、巨大なスズメバチの巣がある」

彼の喋り方は抑揚がなく、ポーカーフェイスなので、いまいち大変さが伝わってこない。

「そ~~そのうち、きっと、誰かが気づいて何とかするデショ」

「当分、誰も気づかないよ!誰かが刺されてからじゃ遅いよ」

次男は

「奥にスズメバチの巣あり!」

と書いた貼り紙を、目立つ場所に貼りに行った。


翌日、役所から駆除業者が来て、大捕り物となった。


夫が、次男に言った。

「あんな所に、スズメバチの巣があるって気づくのは、昆虫の生態に詳しい君ぐらいだよ。学問や勉強は、誰かの役に立ってこそだって…証明できたナ。いつも、いろいろな事を勉強している君ならではじゃないか」


小さな出来事だったが…

彼が進んで行く、一つのきっかけになったように思う。


受験は若き日の試練…


やがて、その日々をどう思い出すのかは…

一人ひとりが、どう立ち向かったかによるのだろう。


まるで…人生の縮図のようにも思える。