アシラ(Asherah)
 アシラは、西セム系太女神アシェラトのヘブル読みである。古代イラン語asha(宇宙の法則)に由来するものと思われる。この法則は家母長の法則であって、古代ローマの自然法と同じようなものである 。アシラは「知恵の点では神々のうち最もすぐれた者」であった。シュメール人はアシラをアシュナンAshnan(万物の力、心のやさしい寛大な乙女)と呼んだ 。アシラの聖なる都市マル-アシュMar-ashは、聖書ではマレシャとなっている(『ヨシュア記』第15章 44節)。  旧約聖書の欽定英訳ではアシラは「木立」groveとなっている。しかし聖なる木立が女神の生殖器の中心、つまり万物生誕の場であるという説明はなされていない。母権制時代、ヘブライ人は木立の下で女神を崇拝した(『列王紀上』第14章 23節)。しかし父権制時代になると、改革者たちは女神像を切り倒し、アシラに仕える聖職者たちの骨を彼らの祭壇の上で焼いた(『歴代志下』第34章 4-5節)。  女神の木立-女陰は「聖なる場所」Athra qaddisa(文字どおりの意味では「聖娼」)であっ
た。アシラは、ときには、単に「神聖」と呼ばれた。この名称はのちにヤハウェにつけられた。カナン人はアシラを「神々を生む女神」Qaniyatu elimaあるいは「海を渡る女神」(=月)Rabbatu athiratu yammiと呼んだ 。Rabbatuという語はラビrabbi(ユダヤ教の宗教的指導者)の昔の女性形であった。アシラという名前の変形としては、Athirat、Athra、Aethra、Athyr、そしてエジプトのヘ(ウ)ト=ヘル〔ハトホルHathor〕というのがあった 。エジプトではまたアセト〔イシスIsis〕の古形であるアシェシュAshesh(法を与える母神)でもあった。このアシェシュという名前は、「あふれ出る」という意味と「養育する」という意味とを表した。いずれにしても、アシェシュの乳房のはたす機能を表したものであった。アシェシュの女陰を祀った神殿がテーベにあって、アセルAsher、アシュレルAshrel、あるいはアシュレルトAshreltと言った。アシェシュのことを、「アシェルトの偉大なる女神、天界の女神、神々の女王」と呼んだ人もいた。  アシラは
しばらくの間セム族の神エルElを夫としていた。アシラが天界の雌牛であり、エルが雄牛であった 。この聖なる結婚ののちに、アシラは天界の双子、シャヘルShaherとシャレムShalemを生んだ。明けの明星と宵の明星である。Lucifer.. この結婚の儀式では、母親の乳で仔山羊を煮ることが行われたらしい。しかしこうしたことは、のちに、ユダヤの聖職者たちの禁ずるところとなった(『出エジプト記』第23章 19節)