嫁ぎ法(トツギノリ)で、子を整うる床神酒は、国生む道の教えぞと、伺っております」
 このように教えに従って交わって孕んだものの、十ケ月経っても生まれず、年月を経れどもやはり生まれないので両神の心労は増すばかりでした。九十六ケ月目になってやっと臨月を迎え、備わりご降誕になられたのがアマテル神でした。丸い玉子の御形(みかたち・袋子)でお誕生になられた天子(みこ)のお姿を、皆一様に不思議でいぶかしく思いました。「トヨケ(豊受)の神の教えにあります。害を及ぼすハタレ(悪魔)の一派イソラの障害から君を守ろうと身を固めて祈祷したので、生まれ出た時自然に玉子に守られていたのは幸運の記しです」玉の岩戸を開けとばかりに一位(いちい)の木の笏(さく)の先(はな)を持って、今こそ天の戸は開かれんと胞衣から御子を取り上げました。その時出ずる若日が天地に輝き渡り、イサナギの妹のシラヤマ姫が御子を産湯につかわせました。玉子の姿で生まれたアマテル神を取り上げる際に、被っていた胞衣(えな)を割くのに用いた、位(くらい)の山の一位の笏(さく)をこの時関係者一同に賜わり、以来子々孫々笏を持つ者は神の末裔(まつえい)となりました。叔母姫(白山姫)がコエネ(扶桑北)国で織った御衣を進上す
る際、天子(みこ)の泣く声が「アナウレシ」と聞こえたので、これが君の最初の言葉となりました。これを知った諸神達が叔母姫に是非お名前を聞いてほしいと懇願して、姫から天子(みこ)に問うたところ、自ら「ウヒルギ・大日霊貴」とお答えになられました。この声を良く聞き切ってみると、天子は自分の幼名(おさなな)を名乗られ、その意味は、「ウ」は大いなり、「ヒ」は日の輪、「ル」は日の霊(ちまた)、「ギ」は杵(きね)で、杵は女夫の男の君を表わします。このようなわけで、君の幼名(オサナナ)はウヒルギの天子(みこ)となられました。両神は叔母が「良くぞ天子の名を聞き切ってくれた」と大いに称えて、キクキリ姫(菊桐姫)の名を新たに賜いました。