人々は見ていた。百億ほどの眼という眼が空を見ていた。手を止め足を止め、息をのみ、地球をうごめく人間は静まった。
 空はいつもの空ではなく、色のついた風のようなものが流れている。風の流れが目に見えるようだ。
 そして、不思議な感覚に襲われる。それはまるでまったく知らない世界に投げ出されたような息苦しさだった。足が地面についているのにどちらが上か下かわからない。上空の爽やかな紫色の光は風とは逆方向に流れていた。一つの場所を目指すように向かっていく。光が流れ去り、空が元に戻ると光が向かっていったと思われる方向から強烈な光が放たれた。不思議な事にまぶしくなく、身体に光がしみこんでいくようだった。そして、人々は体の内側から温かいものを感じた。


 世界は機械と魔法が入れ替わり、三千年が経とうとしていた。地球は巨大化し、地形もすっかり変わっていた。
 大陸の端のほう、インリスの隣にあり、海に浮かぶ大和に一番近い国ルードフィ。魔法と同時期に現れたエルフが多く住む国である。そのためか自然が多くある。大半のエルフは人間社会化しているが、いまだに昔からの自然の中での暮らしをしている者もいる。
 国はエルフの王が統治している。王は王族から選ばれ、王族は誰でもなりうる可能性がある。血縁関係でなくとも。
 エルフは長生きで人間の十分の一のスピードでしか歳をとらない。しかし、近年では人間と同じように歳をとりたいと、薬や魔術を遣う者がいる。
 
 エニスは夢を見ていた。
 四輪の機械らしきものが走り、緑がまったくなく、空の色を反射する高い塔ばかり。光沢のある黒い鳥が時々飛んでいる。壊れた角笛を吹いたような音が響き、すすけたような臭いにおいがする。
 しかし、突然時は止まったように静まり返った。足音も空を貫くような音もしなくなった。
 そして、地面が大きく揺れた。リズムよく大きく一定の間隔で。
 

「王位継承権、ねぇ……」

 不服そうな声を出しながら、手紙を見ていた。
 ルードフィの国土の真ん中にあるトト湖水のほとりを歩いている二人は、貝殻のようにうねり光る手紙を握っていた。
 手紙には気取った文字でこう書かれていた。

[このたびルードフィ王国王族に入族されました事、心よりお喜び申し上げます。入族式は明日となります。おって連絡いたします。 敬具]

 青年の隣にいた少女は手紙を見ながら顔を真っ赤にした。エルフ特有のとがった耳の赤みを隠すように触った。

「兄さんは反対なんですよね?」

 顔色をうかがうような声色だったが、少女は兄の顔をまったく見ようともしなかった。小股で足早になった。

「もちろん反対に決まってるだろ」レアルは言った。「どうして二百人もいるのにまだ入れたがるんだ」

「百九十四人です」エニスが口をモゴモゴさせながら言った。
 正確な人数などどうでもよさそうに手紙をクシャッと丸めると投げ、宙に浮いた紙くずに指を向けた。指先からは赤紫の光が放たれ、紙くずに命中すると燃え盛った。手紙は叫びを上げながら燃え尽きた。

「それで? エニスは入族か?」

「……はい。キャンクスの二の舞にはしたくはありません」

 エニスの脳裏に荒れ果てた地と崩れる建物が浮かんだ。
 大昔のキャンクスは機械文明があり、それは高度なものだった。しかし、いつしか大和との産業競争の後に人工知能による反乱が起き、今も続いている。
 機械がほとんど廃れた今にしてルードフィ国王のカーラム王は、それを国に取り入れようとしている。
 反乱戦争が再び起こる事を知っているエニスはなんとしてもそれを阻止したかった。そしてそのチャンスがついに来た。

「王に楯突こうなんて、やっぱり危険だよな」

「私だけに任せてください」

 エニスの言葉に嫌味は含まれていなかった。

「型破りっていうか、異常って思われるな」

 レアルの雰囲気とは真逆のエニス。コバルトグリーンのその目には決意の炎がともっていた。

「異常と思われても、やるしかないんです。処理士なんですから」

 たしなめるようにレアルを見た。兄と妹の立場が逆転しているようだ。
 反乱戦争の生き残り機械はキャンクスを中心に増加し、今の戦いが終わる事は難しくなってきている。魔断師たちが借り出され、機会も人間も一歩も譲らない。処理士が海を渡ってやってくるバグを破壊する地道な作業が続いている。
 世界最大の大陸の一部にそんな事があれば、全土に広がりかねない。なかなか拡大しないのはキャンクスが島国だからだ。

「処理士だから、なぁ……」

 レアルは故郷の自然に調和するような色の髪をガシガシと掻き毟った。一瞬だけ真剣な表情を見せ、レアルは口を開こう押したが、エニスが先に言った。

「国王が目をそらす事は出来ません。そうなった場合には国が崩壊しかねません」

 エニスは遠くに見えるドゥーゲル山脈を眺めながら続けた。

「崩壊した場合にはジェイディスが攻め落としに来ます。そうなるとジェイディスはより強大になり、さらにその上に機械が被さるようになります。最後には大陸を埋め尽くしかねません」

 違いますか? と兄に顔を向けたエニスは眉間にしわを寄せた。兄がほとんど話を聞かず、空を飛ぶ氷羽猿(スウィキー)に木の実を弾丸のように撃ちだしていたからだ。幸い、氷羽猿は木の実が飛ぶ速さについていけているようで口で受け止めてはゴクリと飲み込んでいた。

「聞いているんですか!」

 いつもは大声など出さないエニスにレアルは心底驚いた。持っていた木の実を落としてしまった。

「要するに第四機械反乱をとめるにお前は王位につく。って事だよな? でも、いい方向に転がるって考えないのか?」

 今度はエニスが驚く番だった。予見してきたものはすべてその通りに起きたが、それまでの考えを別の角度から捉えなかったからだ。

「機械を国内で普及させるのがいいというのが、今の常識ですから……」エニスは弱弱しく答えた。

 多くのエルフが山や野原、あるいは村といった自然が隣にあるような場所で育ったため、世界にある最先端の物を知らないのが普通だ。何がいい物か悪い物か自分たちの生活範囲にある物以外ほとんど知らないうえに、魔法は遺伝子により人間の半分ほどしか才がなかった。
 しかし、それ以外なら好戦的だった。そのため魔力を否定する事も多く、それゆえ機械を導入しようとしていた。
 こぶしを握り締め、エニスは一時的にでも予見を忘れようとした。

「王位を継ぐのはこの私です」

 エニスの言葉に嘘はないとレアルは感じた。レアルは予見は出来なかったが勘はよかった。
 エルフが気高いのは一般常識だが、クオーターであるエニスはさらに気高かく見えた。王位継承権を持つ他のエルフよりも。

「まずは、インリスから協定を結びます。次にスカンジスタです。そうすれば魔法道具を輸入出来ますし」

「でも、純血のエルフが魔法を受け入れるとも思えないがな」

「必然的にそうなっていきます。今のままじゃ機械を導入しようがしまいが、ジェイディスに攻め落とされるのは時間の問題です。勝つには小人とエルフ両者が嫌悪する魔力しかありません」エニスは少しの間考え込んだ。「確か、小人は魔力を抜き取る儀式をします。成人になった証として。だとしたら、エルフが優勢です。戦いはしません。圧力をかけるだけです」

 緩やかな丘を上りながら、一言も言葉を詰まらせず言った妹にレアルは手を叩いた。

「今の王を落とす方法も必要だな。急がないとすぐに機械を導入するかもしれない」

 丘を登りきると大きな木々の家が見え、ずっと向こうには山ぐらいの大木を刳り貫いたお城が見えた。
 レアルは息をフゥーッと吐きながら城を見下ろした。この森の町が機械に覆われる日が来るとは到底思えなかった。

「その考え、王位につく前に見抜かれるなよ」

 レアルが悪戯っぽく微笑むと、エニスは笑顔になった。

「そこらは兄さんより上だと自負してます」




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お試し版? いかがでしょうか?

前回の記事で予告したとおり、です。

まあ、一から書いてません。これ。

実はなんかの高校の創作コンクール用のだったんですけど、落選したやつです。

そりゃ、ファンタジーは拒まれるわな。

短編だし、応募内容。

400文字づめぎりぎり10枚以内です。

応募したやつなので1マス開いてますがご了承ください。


とにかく、こんなかんじです。ファンタジーは。

グロいほうは、これを見てアメンバーになってからお願いしますm(u_u)m

ちなみにファンタジーの本編はこんなのじゃないです。

政治わかんないから、普通にファンタジーアクション系です。

でも、レアルさんとエニスちゃんは出てきます。準主役ぐらいで。

これを気に自作小説の小ネタのカテゴリーが出来ます。

なんとなーく、話の内容をわかりやすく伝えるものだと思います。

うちの独り言および葛藤が多いですけど・・・


そんなこんなでよろしくお願いします!