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小さな木陰

それがストローハット

ざわめく大樹よりの木漏れ日眩しい


思いがけない 木陰に安堵する

動く木陰 カンカン照りには これが良い


幼い息子を連れて手取り川の河口で遊んだ頃

鉄橋が木陰の代わりになっていた

麦藁帽子に黄色い長靴

片方が波にさらわれてしまったっけ


あの頃には時間はとっても戻れません

ついこの間の事のようなのに


参考資料↓↓↓

母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね?
ええ、夏、碓氷から霧積へゆくみちで、
谷底へ落としたあの麦わら帽子ですよ。

母さん、あれは好きな帽子でしたよ、
僕はあのときずいぶんくやしかった、
だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから。

母さん、あのとき、向こうから若い薬売りが来ましたっけね、
紺の脚絆に手甲をした。
そして拾はうとして、ずいぶん骨折ってくれましたっけね。
けれど、とうとう駄目だった、
なにしろ深い谷で、それに草が
背たけぐらい伸びていたんですもの。

母さん、ほんとにあの帽子どうなったでせう?
そのとき傍らに咲いていた車百合の花は
もうとうに枯れちゃったでせうね、そして、
秋には、灰色の霧があの丘をこめ、
あの帽子の下で毎晩きりぎりすが啼いたかも知れませんよ。

母さん、そして、きっと今頃は、今夜あたりは、
あの谷間に、静かに雪がつもっているでせう、
昔、つやつや光った、あの伊太利麦の帽子と、
その裏に僕が書いた
Y.S という頭文字を
埋めるように、静かに、寂しく。



『西条八十詩集』(弥生書房)より引用。